2026年1月10日

膝の痛みに悩む方へ:PRGF治療という新しい選択肢
膝の痛みは、日常生活の質を大きく低下させる深刻な問題です。階段の昇り降りが辛い、長時間歩くと痛む、就寝時にも違和感がある。こうした症状に悩まされている方は少なくありません。
従来の治療法では、ヒアルロン酸注射や痛み止めの内服が一般的でした。しかし、これらの治療では一時的な症状緩和にとどまり、根本的な組織の再生には至らないケースも多く見られます。
そこで近年、注目を集めているのが「PRGF治療」です。この治療法は、患者さん自身の血液から抽出した血小板とその中に含まれる成長因子および血漿成分を活用し、膝関節の組織再生を促進する画期的なアプローチとして、世界中で研究が進められています。
本記事では、再生医療に携わってきた整形外科医監修の下、膝PRGF治療の効果、費用、従来療法との違いについて詳しく解説します。
PRGF治療とは?基本的なメカニズムを理解する
PRGF(Plasma Rich in Growth Factor)とは、「成長因子を豊富に含む血漿」を意味します。私たちの血液には、傷を治し新しい組織を再生する「成長因子」が多く含まれており、これらが組織の修復や再生において重要な役割を果たしています。
PRGF治療では、患者さんから(片膝の場合36ml/両膝の場合72ml)血液を採取し、専用の遠心分離機にかけることで、成長因子を多く含む血漿(PRGF)を分離します。この濃縮された成長因子を膝関節に直接注入することで、組織の再生を効率的に促進するのです。
PRGFに含まれる主な成長因子
| 成長因子 | 正式名称 | 主な働き |
|---|---|---|
| PDGF | 血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor) | 細胞の増殖や血管新生を促進し、組織修復の初期段階をサポート |
| TGF | トランスフォーミング成長因子(Transforming Growth Factor) | 細胞外マトリックス(コラーゲンなど)の生成を促し、組織の再構築を促進 |
| IGF | インスリン様成長因子(Insulin-like Growth Factor) | 細胞の分化や代謝を促進し、修復過程を安定化させる |
| EGF | 上皮成長因子(Epidermal Growth Factor) | 上皮細胞の増殖を促進し、皮膚や粘膜の再生を促す |
| FGF | 線維芽細胞成長因子(Fibroblast Growth Factor) | 線維芽細胞の増殖や血管新生を促し、創傷治癒を加速 |
自己血液を使用する安全性の高さ
PRGF治療の大きなメリットは、自分の血液だけを使う再生療法だという点です。牛・豚など異種由来の材料を使わないため、アレルギー反応や拒絶反応のリスクがほとんどありません。
さらに、市販の人工的な成長因子製剤は特定の因子だけを高濃度にしたものが多いのに対して、PRGFは本人の血液から取り出した成長因子を、その人の体内と近いバランスで使えるのが特徴です。
そのため、体にとって無理のない自然な濃度で組織再生を促せる、安全性と生体適合性の高い治療といえます。
膝変形性関節症に対するPRGF治療の効果:研究から見る実績
2021年に発表された大規模な臨床試験では、軽度から中等度の膝変形性関節症患者200名を対象に、オゾンの4種類の関節内注射の効果が比較されました。
| 治療法 | 使用する成分 | 主な目的・特徴 | 効果の持続 |
|---|---|---|---|
| ヒアルロン酸(HA) | 関節液に含まれる潤滑成分 | 関節のすべりを良くし、痛みを軽減 | △ 一時的(数週間〜数ヶ月) |
| PRP(多血小板血漿) | 自己血液中の血小板を濃縮 | 成長因子を利用して炎症を抑え、修復を促進 | ◎ 長期的(6〜12ヶ月) |
| PRGF(成長因子豊富血漿) | PRPをさらに精製し、不要成分を除去 | 純粋な成長因子のみで炎症を抑え、再生を促す | ◎ 長期的(6〜12ヶ月) |
| オゾン療法 | 医療用オゾンガス | 抗炎症・鎮痛効果を目的に使用 | △〜○ 短〜中期的 |
評価方法
評価時期:治療前/2ヶ月後/6ヶ月後/12ヶ月後
使用した評価指標:
VAS(視覚的アナログスケール) … 痛みの強さを数値化
WOMAC指数 … 関節の痛み・こわばり・日常動作のしやすさを評価
Lequesne指数 … 関節症の重症度を総合的に評価
患者の平均年齢は56.9±6.3歳、69.5%が女性
短期効果:2ヶ月後の評価結果
2ヶ月後の評価では、全群で疼痛、硬直、機能に有意な改善が見られましたが、興味深いことにオゾン療法が最も優れた短期結果を示しました。
中期効果:6ヶ月後の評価結果
しかし6ヶ月後の評価では、状況が変化しました。HA、PRP、PRGF群がオゾン群よりも全スコアで優れた治療効果を示したのです。オゾンの治療効果は他の治療法よりも早く減弱し始めることが明らかになりました。
長期効果:12ヶ月後の評価結果
12ヶ月後の最終評価では、PRGF群とPRP群のみが、HA群とオゾン群と比較して全スコアで有意に優れた結果を示しました。WOMAC指数およびLequesne指数では、12ヶ月後に4群間で有意差は認められませんでしたが、疼痛と機能の改善においてPRGFとPRPが長期的な優位性を示しました。
この研究結果から、PRGF治療は短期的な症状緩和だけでなく、12ヶ月間にわたる持続的な症状改善をもたらす可能性があることが示されました。
PRGF治療と従来療法の比較:何が違うのか
膝変形性関節症の治療には、様々な選択肢があります。ここでは、PRGF治療と主な従来療法を比較し、それぞれの特徴を明らかにします。
ヒアルロン酸注射との比較
ヒアルロン酸は関節液の主成分で、関節の潤滑やクッションの役割を果たしています。注射で補うことで、痛みの軽減や動かしやすさの改善が期待できますが、あくまで「症状をやわらげる」目的であり、組織を再生する力はほとんどありません。
一方、PRGFは自分の血液から取り出した成長因子の力で軟骨や半月板を修復します。炎症を抑え、組織そのものを再生させるため、長期的な改善が期待できます。
研究では、1年後の時点でPRGFの方がヒアルロン酸よりも効果が持続していました。
オゾン療法との比較
オゾン療法は、酸素とオゾンを混ぜたガスを関節に注射し、炎症を抑える治療です。短期間で痛みをやわらげる効果がありますが、効果の持続は短く、2ヶ月後がピークで、6ヶ月を過ぎると効果が薄れ、1年後にはほとんど消えました。
一方、PRGFは組織を根本から再生させるため、治療後も半年〜1年以上の改善が続くケースが多いと報告されています。
PRP(多血小板血漿)との比較
PRPも自分の血液を使った再生療法ですが、白血球や炎症物質が含まれることがあります。そのため、個人差によっては一時的に炎症や腫れが出やすい場合があります。PRGFは、血小板とその中に含まれる成長因子および血漿成分だけを抽出。その結果、炎症リスクが少なく、より穏やかで安定した効果が得られます。
研究では、PRPとPRGFの1年後の効果に大きな差はありませんでしたが、PRGFの方が体に優しい再生医療と言えるでしょう。
PRGF治療の実際の流れと費用について
PRGF治療を検討されている方にとって、実際の治療の流れや費用は重要な関心事です。ここでは、治療プロセスと費用の目安について説明します。
治療の流れ
PRGF(成長因子豊富血漿)治療は、以下のステップで行われます。
すべての工程は約60〜90分程度で完了します。
STEP 1:血液の採取
患者さまご自身の血液を採取します。
片膝の場合:約 36ml / 両膝の場合:約 72ml
採血は通常の採血と同様で、数分で完了します。
STEP 2:遠心分離
採取した血液を専用の遠心分離機にかけます(約20〜30分)。
この過程で、成長因子を多く含む血漿(PRGF)を抽出します。
STEP 3:成長因子の活性化
抽出したPRGFに血小板活性化因子を加え、40±1℃で約20〜30分間インキュベート(培養)。これにより、成長因子、血漿成分がしっかりと放出されます。
STEP 4:PRGFの注射
完成したPRGFを超音波で膝関節内に確実に針が入っていることを確認しながら注射します。
痛みはごく軽度で、短時間で終了します。
STEP 5:安静・軽い運動
注射後は、15〜20分ほど安静にしていただきます。
その後、膝を軽く屈伸させることで、PRGFが関節全体に均等に行き渡るようにします。
治療後について
治療直後から歩行可能で、通常の日常生活に戻れます。
特別なダウンタイムはありませんが、激しい運動は当日〜翌日までは控えましょう。
東京BTクリニックでは、治療後のフォローアップも重視しており、定期的な診察で経過を確認しながら、必要に応じて追加治療や生活指導を行っています。
治療回数と間隔
一般的には、3〜4週間の間隔で3回の注射を1クールとして行うことが多いようです。症状の改善が見られない場合や、より持続的な効果を求める場合には、追加の治療が検討されることもあります。
費用の目安
PRGF治療は、日本ではまだ保険診療として認められていません。そのため、治療を受ける方は自由診療となります。
医療機関によって費用は異なりますが、当院では、1回のPRGF注射にかかる費用は50,000円、同一部位は2回目以降30,000円と比較的お求めいただきやすい価格設定をさせていただいております。
両膝に治療を行う場合や、複数回の治療を行う場合には、さらに費用が増加します。治療を検討される際には、事前に医療機関に詳細な費用を確認することをお勧めします。
なお、PRGF治療は先進医療や高額医療の補助の対象とはなりませんので、この点もご留意ください。
PRGF治療の適応と注意点
PRGF治療は、すべての膝の痛みに対して有効というわけではありません。適応となる症状や、治療を受ける際の注意点について理解しておくことが重要です。
PRGF治療が適している方
PRGF治療は、軽度から中等度の膝変形性関節症の方に特に適しています。具体的には、以下のような症状をお持ちの方が適応となる可能性があります。
歩行時や階段昇降時に膝の痛みを感じる方
膝に水が溜まりやすい方
従来のヒアルロン酸注射や痛み止めの効果が不十分だった方
手術を避けたいと考えている方
自己血液を使用した安全性の高い治療を希望される方
PRGF治療が適さない方
一方で、以下のような方はPRGF治療の適応外となる場合があります。
重度の変形性関節症で、関節の隙間が完全に消失している方
血小板数が150,000/μl未満の方
ヘモグロビンが12mg/dl未満の方
抗凝固薬や抗血小板薬を服用中の方(治療前10日間の休薬が必要)
活動性の感染症がある方
悪性腫瘍の既往がある方
妊娠中や授乳中の方
G6PD欠損症の方
ACE阻害薬を服用中の方
治療の適応について慎重な判断が必要です。
適応の可否については一度ご来医院いただき、現状をしっかりお伺いさせえていただいた上で判断させていただきます。
PRGF治療の効果を最大化するために
PRGF治療の効果は、患者さん自身の取り組みによっても大きく左右されます。治療効果を最大化するためのポイントをご紹介します。
適切な体重管理
肥満の方ではPRGF治療の効果が低下することが示されています。膝関節にかかる負担を軽減するためにも、適切な体重管理が重要です。
体重が1kg減少すると、歩行時に膝関節にかかる負担は約3kg軽減されると言われています。無理のない範囲での体重管理を心がけることが、治療効果の向上につながります。
継続的な運動療法
PRGF治療と並行して、適切な運動療法を継続することが重要です。膝周囲の筋力を強化することで、関節の安定性が向上し、痛みの軽減につながります。
特に大腿四頭筋の筋力強化は、膝関節の安定性向上に効果的です。当院では医師の監修のもと、適切な運動プログラムを実施しております。
生活習慣の見直し
喫煙は組織の治癒を妨げる要因となります。PRGF治療の効果を最大化するためには、治療前後の禁煙が推奨されます。
また、十分な睡眠と栄養バランスの取れた食事も、組織の再生を促進する上で重要です。特にタンパク質、ビタミンC、ビタミンDなどは、組織の修復に必要な栄養素です。
まとめ:PRGF治療は膝の痛みに対する有望な選択肢
PRGF治療は、患者さん自身の血液から抽出した血小板とその中に含まれる成長因子および血漿成分を活用し、膝関節の組織再生を促進する治療法です。
従来のヒアルロン酸注射やオゾン療法と比較して、PRGF治療は長期的な効果において優位性を示しており、特に既存の治療法への反応が乏しい方にとって、有望な選択肢となる可能性があります。
自己血液を使用するため、アレルギー反応や拒絶反応のリスクが低く、安全性が高いことも大きな利点です。
PRGF治療を検討される際には、専門医とよく相談した上で判断されることをお勧めします。適切な患者さんに対して適切なタイミングで実施されれば、PRGF治療は膝の痛みを軽減し、生活の質を向上させる有効な手段となるでしょう。
当院のDr吉岡は膝関節外科を専門にする整形外科学会専門医で、これまでなでしこジャパンのチームドクターを歴任した膝関節のプロフェッショナルです。様々な医療機関を受診しても悩みが解消されなかった患者さんに対して、今まで培った多くの知見を下に、適切な治療と一貫したサポート体制を設けております。
詳細については、東京BTクリニック歯科・医科のウェブサイトをご覧いただくか、お気軽にお問い合わせください。
参照:https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7860007/

著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医

