2025年10月17日

いびきと睡眠時無呼吸症候群の密接な関係性
夜中に大きないびきをかく人を見たことがありますか?パートナーのいびきで眠れない夜を過ごしたことはないでしょうか。多くの方は「いびき」を単なる音の問題として捉えがちですが、実はこれが重大な健康リスクの警告サインである可能性があります。
いびきは、睡眠中に上気道(鼻からのどにかけての空気の通り道)が部分的に狭くなることで発生します。空気が狭くなった部分を通過する際に周囲の軟部組織が振動し、あの特徴的な音が生まれるのです。
しかし、単なる「うるさいいびき」と「睡眠時無呼吸症候群」は明確に区別する必要があります。睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は、睡眠中に呼吸が10秒以上停止する状態が繰り返し起こる疾患です。この状態が1時間に5回以上、または7時間の睡眠中に30回以上発生すると、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠時無呼吸症候群の危険性と見逃せない症状
睡眠時無呼吸症候群は単なる睡眠の問題ではありません。夜間に何度も呼吸が止まることで、体内が低酸素状態に陥り、質の良い睡眠が得られなくなります。
この状態を放置すると、さまざまな健康リスクが高まります。健常者と比較して、糖尿病のリスクは1.5倍、高血圧は2倍、心血管疾患は3倍、脳血管障害は4倍にも上昇します。さらに、突然死や認知症、うつ病のリスクも高まることが分かっています。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状には、以下のようなものがあります:
大きないびき(ただし、いびきがない場合もある)
日中の強い眠気や倦怠感
起床時の頭痛
口の渇き
夜間頻尿
集中力の低下
記憶力の低下
イライラや気分の落ち込み
性欲減退
特に注意すべきは、これらの症状が「ただの疲れ」や「年齢のせい」と見過ごされがちな点です。睡眠時無呼吸症候群になりやすい方の特徴として、肥満、50歳以上、男性、毎日の飲酒などが挙げられますが、これらの条件に当てはまらない方でも発症することがあります。
睡眠時無呼吸症候群の診断方法
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まずは専門医療機関での適切な検査が必要です。診断は一般的に以下のステップで進められます。
問診と診察
まず医師による詳しい問診が行われます。睡眠の質、日中の眠気、いびきの有無などについて質問されるでしょう。また、身長・体重測定や口腔内の診察も重要です。顎の小ささや舌の大きさなど、解剖学的な特徴が睡眠時無呼吸症候群のリスク要因となることがあります。
簡易検査(自宅でのスクリーニング検査)
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まず自宅で行える簡易検査が実施されることがあります。小型の測定器を装着して就寝し、酸素飽和度や気流、いびき、体位などを測定します。
この検査は比較的手軽に行えますが、簡易的なものであるため、より詳細な検査が必要となる場合もあります。
精密検査(ポリソムノグラフィー検査:PSG)
睡眠時無呼吸症候群の確定診断には、ポリソムノグラフィー検査が最も信頼性の高い方法です。この検査は通常、睡眠専門医療機関で一泊入院して行います。
検査中は脳波、心電図、筋電図、呼吸状態、酸素飽和度、体位など多くのパラメーターを同時に測定します。これにより、睡眠の質、無呼吸・低呼吸の回数や種類、重症度などを詳細に評価できます。
検査結果では、AHI(無呼吸低呼吸指数:Apnea Hypopnea Index)という値が重要な指標となります。これは1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を示し、この値によって重症度が判断されます。
AHI 5未満:正常
AHI 5以上15未満:軽症
AHI 15以上30未満:中等症
AHI 30以上:重症
診断結果に基づいて、適切な治療法が選択されます。重症度や原因によって、最適な治療アプローチは異なります。
睡眠時無呼吸症候群の標準治療法
睡眠時無呼吸症候群の治療法は、症状の重症度や原因によって異なります。ここでは主な治療法について解説します。
CPAP(シーパップ)療法
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)は、中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群に対する標準治療です。睡眠中にマスクを装着し、機械で圧力をかけた空気を鼻から送り込むことで、気道を広げて無呼吸を防止します。
CPAP療法は効果的な治療法であり、適切に使用すれば無呼吸の回数を大幅に減少させることができます。また、日中の眠気など自覚症状も改善することが知られています。
研究によると、重症の睡眠時無呼吸症候群患者において、CPAP治療を行った場合と行わなかった場合を比較すると、治療を行った患者は心筋梗塞や脳梗塞のリスクが大幅に低下することが示されています。
しかし、CPAP療法には継続の難しさという大きな課題があります。マスクの装着感の不快さ、圧迫感、機械の音、持ち運びの不便さなどから、継続率は約50%程度と報告されています。
マウスピース(口腔内装置)療法
マウスピース療法は、軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群や、CPAP療法が合わない患者さんに適した治療法です。就寝時に専用のマウスピースを装着し、下顎を前方に引き出すことで気道を確保します。
当院のマウスピースには主に固定式と可動式の2種類があります。固定式は下顎の位置を一定に保持するタイプで、可動式は口の開閉がある程度可能なタイプです。可動式は装着感がより快適で、睡眠中の自然な動きを妨げにくいという利点があります。
当院で行うマウスピース療法のメリットとしては、装着が簡単で継続しやすい点、
CTやセファロを通じた、患者さん一人ひとりにあったオーダーメイドのマウスピースの作成が可能です。また、小型・軽量なため出張や旅行にも持っていきやすく、通院頻度も3~6ヶ月に1回程度と少なくて済みます。
ただし、顎関節に負担がかかる可能性もあるため、歯科医師による適切な調整が必要です。


最新の代替治療法と根本的アプローチ
標準治療であるCPAP療法やマウスピース療法に加え、近年では新たな治療アプローチも注目されています。
ナイトレーズ(レーザー治療)
ナイトレーズは、いびきや軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群に対する最新のレーザー治療法です。口蓋(上あごの奥)の組織にレーザーを照射することで、組織を引き締め、振動を抑制する効果があります。
治療は通常3回程度のセッションで行われ、痛みもほとんどなく日帰りで受けられます。効果は1~2年持続するとされていますが、個人差があります。
ナイトレーズの利点は、装置を装着する必要がなく、日常生活に影響が少ない点です。またマウスピースと併用することで更なる効果を得ることができます。
顎顔面骨格矯正と口呼吸改善
睡眠時無呼吸症候群の根本的な原因に対するアプローチとして、顎顔面骨格矯正治療も注目されています。特に小顎症(顎が小さい)や上顎の狭窄がある場合、顎顔面骨格矯によって気道スペースを拡大することで症状改善が期待できます。
また、口呼吸から鼻呼吸への改善も重要です。口呼吸は舌の位置が低くなり気道を狭める原因となるため、鼻呼吸トレーニングや筋機能療法などを併用することで、より効果的な治療が可能になります。
長期的かつ根本的な改善を目指す場合に有効です。特に小児期からの早期介入は、将来の睡眠時無呼吸症候群予防にも繋がります。
まとめ:いびきと睡眠時無呼吸症候群への総合的アプローチ
いびきと睡眠時無呼吸症候群は、単なる「うるさい」という問題ではなく、全身の健康に関わる重要な疾患です。放置すると様々な合併症のリスクが高まるため、早期発見・早期治療が重要です。
治療法は症状の重症度や原因によって異なりますが、CPAP療法、マウスピース療法、最新のレーザー治療や顎顔面骨格矯など、様々な選択肢があります。どの治療法を選択するかは、医師との相談のうえで決定することが大切です。
いびきや日中の強い眠気など、気になる症状がある方は、ぜひ専門医療機関での検査をご検討ください。
東京BTクリニック歯科・医科では、睡眠時無呼吸症候群に対して、歯科的アプローチによる治療を提供しています。マウスピース療法をはじめ、ナイトレーズ(レーザー治療)、顎顔面骨格矯など、患者様の状態に合わせた最適な治療法をご提案いたします。いびきや睡眠の質でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
詳細は東京BTクリニック歯科・医科の公式サイトをご覧ください。

著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医 日本臨床補綴学会 専門医 日本歯周病学会 認定医 IDIA顎顔面外科矯正 指導医 日本睡眠学会 日本睡眠歯科学会
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