2025年8月26日

いびきの原因とメカニズム~なぜ音が出るのか
いびきは単なる音の問題ではなく、睡眠の質や健康に大きく影響する症状です。多くの方が「家族からうるさいと言われる」「朝起きても疲れが取れない」といった悩みを抱えています。
いびきが発生する主な仕組みは、睡眠中に上気道(鼻から喉にかけての空気の通り道)が狭くなることで起こります。この狭くなった部分を空気が通過する際に、周囲の軟部組織が振動して音が発生するのです。
特に仰向けで寝ると、重力の影響で舌が喉の方へ沈み込み(舌根沈下)、気道がさらに狭くなりやすくなります。これがいびきの音を大きくする一因となっています。
いびきの主な原因と危険性
いびきの原因は一つではありません。様々な要因が複合的に関わっていることが多いのです。
まず肥満は最も一般的な原因の一つです。体重が増えると首や喉の周りに脂肪が蓄積し、気道を圧迫します。実際、BMI(体格指数)が25を超えると、いびきのリスクは大幅に高まります。
加齢も重要な要因です。年を重ねるにつれて喉の筋肉が緩みやすくなり、気道が狭くなりやすくなります。これは40代以降の方に特に顕著に見られる現象です。
また、アルコールの摂取や睡眠薬の使用も一時的に喉の筋肉を弛緩させ、いびきを悪化させることがあります。就寝前の飲酒習慣がある方は、いびきの頻度や音量が増加する傾向にあります。
鼻炎やアレルギーによる鼻づまりも見逃せません。鼻呼吸ができなくなると、必然的に口呼吸になり、いびきの原因となります。季節性のアレルギーがある方は、特定の時期にいびきが悪化することがあるでしょう。
解剖学的な要因としては、鼻中隔湾曲症や扁桃肥大、小顎症などが挙げられます。これらは生まれつきの特徴であることが多く、気道の狭窄を引き起こします。
いびきと睡眠時無呼吸症候群の関係
いびきは単なる音の問題ではなく、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の重要な警告サインである場合があります。SASは睡眠中に呼吸が何度も止まる深刻な疾患で、放置すると様々な健康リスクをもたらします。
特に「大きないびき」「息が止まる」「日中の強い眠気」といった症状が見られる場合は要注意です。SASは高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病などのリスクを高めることが研究で明らかになっています。
いびきを単なる生活習慣の問題と軽視せず、睡眠の質や健康状態全体に関わる重要なサインとして捉えることが大切です。

自分でできるいびき対策
いびきに悩んでいる方が自宅で試せる対策はいくつかあります。これらの方法は軽度から中等度のいびきに効果的で、生活習慣の改善から始められるのが特徴です。
睡眠姿勢の改善
仰向け(仰臥位)で寝ると、重力の影響で舌が喉の奥に落ち込み、気道が狭くなりやすくなります。横向き(側臥位)で寝ることで、この問題を軽減できることが多いのです。
横向きの姿勢を維持するためには、専用の枕や背中にテニスボールを縫い付けたTシャツを着るなどの工夫が効果的です。これにより無意識に仰向けになることを防ぎます。
枕の高さも重要です。高すぎても低すぎても気道に負担をかけるため、自分の体型に合った適切な高さの枕を選びましょう。首のカーブを自然に保てる高さが理想的です。
体重管理と生活習慣の改善
肥満はいびきの主要な原因の一つです。体重が増えると首や喉の周りに脂肪が蓄積し、気道を圧迫します。適正体重を維持することで、いびきが大幅に改善するケースも少なくありません。
また、就寝前のアルコール摂取は喉の筋肉を弛緩させ、いびきを悪化させます。寝る3時間前からはアルコールを控えることをお勧めします。
規則正しい睡眠スケジュールを守ることも重要です。睡眠不足が続くと、深い睡眠時に筋肉がより弛緩し、いびきが悪化する傾向があります。毎日同じ時間に就寝・起床する習慣をつけましょう。
鼻呼吸の促進
鼻づまりがいびきの原因になっている場合は、鼻呼吸を促進する対策が効果的です。鼻腔拡張テープは鼻の通気性を改善し、鼻呼吸をしやすくする簡単な方法の一つです。
鼻腔拡張テープは、鼻の両側面にへの字型に貼り付け、まっすぐの形状に戻ろうとする力(反発力)を使って鼻腔を拡張するテープです。両方の鼻腔を外側に広げることから、鼻づまりの状態が改善され、睡眠中の鼻づまりに悩まされることなく快適な呼吸を維持できます。
ただし、鼻腔拡張テープの効果には個人差があります。アレルギーや鼻づまりのせいで鼻呼吸ができない人には効果的ですが、すべての人に同じ効果があるわけではありません。
寝る前の鼻洗浄も効果的な方法です。生理食塩水を使って鼻腔を洗浄することで、アレルゲンや粘液を取り除き、鼻呼吸をしやすくします。特にアレルギー性鼻炎がある方におすすめです。
これらの自己対策は軽度のいびきには効果的ですが、症状が重い場合や睡眠時無呼吸が疑われる場合は、専門医への相談が必要です。
医療機関で受けられるいびき治療
自己対策で改善しない場合や、症状が重い場合は医療機関での専門的な治療が必要になります。現在では様々な治療オプションが利用可能です。
マウスピース(スリープスプリント)療法
マウスピース療法は、いびきや軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群に効果的な治療法です。専用のマウスピースを装着することで、下あごを前方に出し、気道を広げる効果があります。
いびき対策・防止マウスピース(スリープスプリント療法)は、装着すると下あごが前方に4~7mm前に出るように設計されています。下あごが前に出ることで舌が喉側に落ち込みにくくなり、気道が確保されやすくなるのです。
この治療法は、歯がしっかりと生えそろっている人、顎関節症の症状がない人、鼻呼吸が習慣化している人に特に適しています。一方、総入れ歯の方や顎関節の症状がある方、重度の鼻炎がある方には向かない場合があります。
CPAP(シーパップ)療法
CPAP療法は中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群の標準的な治療法です。マスクを通じて持続的に陽圧の空気を送り込み、気道が閉塞するのを物理的に防ぎます。
CPAP装置は鼻や口に装着したマスクから持続的に陽圧の空気を送り込み、狭くなった気道を内側から広げ、空気の通り道を確保します。この働きにより気道の振動が抑えられ、いびきが軽減または消失するのです。
効果は即効性があり高い治療効果を示しますが、マスクの装着感や機器の音などに慣れるまで時間がかかる場合があります。また、正しくフィットしたマスクの選択や適切な圧力設定が治療成功の鍵となります。
CPAP使用中にいびきが続く場合は、マスクの不具合や圧力設定の問題、あるいは患者さん自身の体の変化など、様々な原因が考えられます。医師に相談して適切な調整を行うことが重要です。
外科的治療
解剖学的な問題が明確な場合は、外科的治療が選択肢となります。鼻中隔湾曲症の矯正手術や口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)、舌根部減量術などがあります。
これらの手術は特定の原因に対して効果的ですが、すべてのいびきに適応するわけではありません。手術の適応は専門医による詳細な検査と診断に基づいて判断されます。
手術は一度の治療で長期的な効果が期待できる一方、回復期間や合併症のリスクも考慮する必要があります。医師とよく相談し、メリット・デメリットを理解した上で判断しましょう。

最新のいびき治療と研究動向
いびきと睡眠時無呼吸症候群の治療は日々進化しています。最新の研究や治療法について紹介します。
舌下神経刺激療法
舌下神経刺激療法は、睡眠中に舌の筋肉を適度に刺激して気道の開存性を維持する革新的な治療法です。小型の装置を体内に埋め込み、舌下神経に微弱な電気刺激を送ります。
この治療法は特に、CPAPを使用できない重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者さんに新たな選択肢を提供しています。手術が必要ですが、一度埋め込めば長期間にわたって効果が期待できます。
鼻腔挿入デバイス
鼻から挿入するチューブ状のデバイスも開発されています。例えば「ナステント」と呼ばれる医療用シリコンゴム製のデバイスは、鼻から挿入し先端が口蓋垂(のどちんこ)付近まで達することで、気道の閉塞を物理的に防ぎます。
このデバイスは非常に柔らかい材料で作られており、多くの方が小さな負担で症状を緩和できるように設計されています。気道閉塞によるいびきの軽減やいびき防止に貢献する一般医療機器として注目されています。
睡眠の質の評価と総合的アプローチ
近年では、いびきだけでなく睡眠の質全体を評価する総合的なアプローチが重視されています。脳波測定による睡眠検査(ポリソムノグラフィー)や自宅で行える簡易検査キットの精度も向上しています。
例えば、脳波解析により「深い眠りの割合」や「途中で目が覚めていた時間の割合」、「眠るまでにかかった時間」などの数値を取得し、睡眠の質を客観的に評価することが可能になっています。
このような詳細な睡眠データに基づいて、個々の患者さんに最適な治療法を選択する「オーダーメイド治療」の研究も進んでいます。いびきの原因は人それぞれ異なるため、一人ひとりに合った治療法を選択することが重要です。
妊婦さんや子どものいびき対策
いびきは大人だけの問題ではありません。妊婦さんや子どもにも見られることがあり、それぞれに適した対策が必要です。
妊婦さんのいびき
妊娠中はホルモンバランスの変化や体重増加により、それまでいびきをかかなかった方でも一時的にいびきが発生することがあります。特に妊娠後期に多く見られます。
妊娠中の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は、母子ともに健康リスクを高める可能性があります。研究によると、CPAP治療を受けた妊婦はCPAP治療を受けなかった妊婦と比較して、妊娠高血圧症のリスクが35%低下し、妊娠中毒症のリスクも30%低下したことが報告されています。
妊婦さんのいびき対策としては、横向きで寝る、上半身を少し高くする、適度な運動と体重管理を心がける、などが基本です。症状が重い場合は産婦人科医と相談し、必要に応じて睡眠専門医の診察を受けることをお勧めします。
子どものいびき
子どものいびきは見過ごされがちですが、学習能力や発達に影響を与える可能性があるため注意が必要です。主な原因としては、扁桃肥大やアデノイド肥大が挙げられます。
子どもの睡眠時間は年齢によって異なりますが、十分な睡眠時間と質のよい睡眠は、運動能力や記憶能力を高めることがわかっています。日本の子どもたちの総睡眠時間は短い傾向にあり、小学1~4年生で8.7~9.2時間、小学5~6年生で8.3~8.5時間、中学生で7.2~7.6時間と報告されています。
子どもの睡眠の質を高めるためには、規則正しい生活リズムを整えることが大切です。同じ時間に寝る、または同じ時間に起きるといった規則正しい睡眠と覚醒のリズムを整えることは、子どもの健やかな発育と成長、健康保持のために重要です。
子どものいびきが続く場合や、睡眠中に呼吸が止まる、日中の眠気が強いなどの症状がある場合は、小児科医に相談しましょう。必要に応じて耳鼻咽喉科や睡眠専門医の診察を受けることをお勧めします。さらに、上顎が狭い小児は鼻呼吸ができないため、上顎の骨格拡大治療ができる歯科医院の受診もおすすめします。

いびきと全身疾患の関係
いびきは単なる音の問題ではなく、様々な全身疾患と関連していることがわかっています。特に睡眠時無呼吸症候群を伴ういびきは、多くの健康リスクと関連しています。
いびきと生活習慣病
いびきと睡眠時無呼吸症候群は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病と密接に関連しています。睡眠中の低酸素状態や頻繁な覚醒が、これらの疾患のリスクを高めることが研究で明らかになっています。
特に高血圧との関連は強く、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約半数が高血圧を合併しているというデータもあります。CPAPなどの適切な治療により、血圧のコントロールが改善することも報告されています。
いびきと心血管疾患
重度のいびきや睡眠時無呼吸症候群は、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な心血管疾患のリスク因子となります。睡眠中の低酸素状態が繰り返されることで、血管内皮機能の障害や炎症反応が引き起こされ、動脈硬化が進行するためです。
また、睡眠時無呼吸症候群は不整脈のリスクも高めます。特に心房細動との関連が指摘されており、適切な睡眠時無呼吸症候群の治療により、心房細動の再発リスクが低下することも報告されています。
いびきと認知機能
睡眠時無呼吸症候群による慢性的な睡眠の質の低下は、記憶力や集中力の低下、判断力の鈍化など、認知機能に悪影響を及ぼします。長期的には認知症のリスクを高める可能性も指摘されています。
特に中高年の方で、いびきとともに日中の強い眠気や物忘れの増加を感じる場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性を考慮し、専門医に相談することをお勧めします。
いびきを単なる音の問題と軽視せず、全身の健康状態と関連する重要なサインとして捉え、必要に応じて適切な検査と治療を受けることが大切です。
まとめ:いびき対策で睡眠の質を高める
いびきは単なる音の問題ではなく、睡眠の質や健康全体に影響を与える重要なサインです。軽度のいびきから重度の睡眠時無呼吸症候群まで、その原因と対策は多岐にわたります。
軽度のいびきであれば、睡眠姿勢の改善、体重管理、生活習慣の見直しなど、自分でできる対策から始めることができます。横向きで寝る習慣をつけたり、就寝前のアルコールを控えるだけでも、大きな改善が見られることがあります。
鼻づまりが原因の場合は、鼻腔拡張テープや鼻洗浄などで鼻呼吸を促進することも効果的です。ただし、これらの自己対策で改善しない場合や、症状が重い場合は専門医への相談が必要です。
医療機関では、マウスピース療法やCPAP療法、外科的治療など、症状や原因に応じた専門的な治療を受けることができます。当院では、CT撮影やセファログラム(頭部X線規格写真)による詳細な診断データを基に、患者様お一人お一人の口腔内状態に最適化したオーダーメイドのマウスピース装置を製作しています。固定式・可動式の両タイプに対応し、精密な治療を提供いたします。
さらに、レーザーを用いた治療も実施しており、日帰り手術が可能です。麻酔をする必要もなく、ダウンタイムがほとんどないことから、多くの患者様からご好評をいただいております。
また、睡眠の質向上を目指した根本原因へのアプローチとして、顎顔面骨格矯正治療にも専門的に取り組んでおります。
いびきの改善は、睡眠の質を高めるだけでなく、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、心血管疾患のリスク低減にもつながります。自分自身の健康のためにも、パートナーの睡眠のためにも、いびき対策に積極的に取り組みましょう。
東京BTクリニック歯科・医科では、睡眠の質を改善する根本治療を提供しています。CPAPが辛い・使えない方、口呼吸の改善をしたい方、いびきでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。歯科と医科の連携により、お一人おひとりに最適な治療法をご提案いたします。
著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医 日本臨床補綴学会 専門医 日本歯周病学会 認定医 IDIA顎顔面外科矯正 指導医 日本睡眠学会 日本睡眠歯科学会