2025年8月26日

いびきは単なる音ではない~睡眠障害のサインかも
いびきは、ただの音ではなく、体からのSOSサインかもしれません。多くの方が「いびきぐらい誰でもかくもの」と軽視しがちですが、実はいびきには様々な健康リスクが潜んでいます。
いびきは睡眠中に上咽頭から発生する荒い雑音です。男性の約57%、女性の40%に見られる非常に一般的な現象で、年齢とともに有病率が上昇します。
睡眠中にいびきをかくのは、上咽頭の軟部組織、特に軟口蓋が気流によって振動することで発生します。この振動は、組織の大きさや硬さ、そして気流の速度や方向などの要因によって変化します。人は覚醒時にはいびきをかかないことから、睡眠による筋弛緩がいびきの原因の一部であることがわかります。
あなたは夜、静かに眠れていますか?もしくは、パートナーのいびきで眠れない夜を過ごしていませんか?
いびきの音量は、わずかに聞き取れる程度のものから、隣室にまで聞こえうる極めてうるさいものまで様々です。通常、いびきは本人よりも周囲の人(特に一緒に寝ているパートナーや同室者)にとって苦痛となりますが、まれに自分のいびきで目を覚ましてしまう方もいます。

いびきが引き起こす健康リスクとは
いびきを単なる「寝ているときの音」と思っている方は多いでしょう。しかし、慢性的ないびきには、私たちの健康を蝕む重大なリスクが潜んでいるのです。
まず、いびきによって睡眠の質が著しく低下します。自分のいびきで浅い眠りになってしまったり、家族やパートナーの眠りを妨げてしまったりと、身体的にも精神的にも悪影響が出ます。深い睡眠がとれないと、日中に眠気を感じやすくなり、集中力や判断力の低下を招き、仕事や運転などに支障をきたすこともあります。
さらに深刻なのは「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」への進行です。この病気は、眠っている間に何度も呼吸が止まる状態が繰り返されるもので、無意識のうちに命の危険にさらされていることすらあります。酸素不足が続くことで、脳卒中や心筋梗塞、高血圧、糖尿病といった重大な疾患を引き起こすリスクが高まり、放置することで突然死に至るケースも報告されています。
いびきは自分だけの問題ではありません。パートナーの睡眠を妨げることで、家庭内のストレスが増し、夫婦関係が悪化する原因になることもあります。別々に寝るようになった、寝室を分けた、という話も少なくなく、いびきは人間関係にまで影響を及ぼす社会的な問題にもなり得るのです。
いびきは、小顎症や下顎後退症、鼻中隔偏位、肥満、巨舌症、軟口蓋の腫大、咽頭側壁の腫大などの構造的要因によって気道がすでに狭くなっている場合に生じやすくなります。また、高齢、肥満、アルコールやその他の鎮静薬の使用、慢性の鼻閉、小さい顎なども危険因子となります。
睡眠障害といびきの密接な関係
いびきと睡眠障害は密接に関連しています。いびきは睡眠呼吸障害の一症状であることが多く、上気道抵抗症候群から閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)まで幅広く関連しています。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者は、睡眠1時間当たりの無呼吸または低呼吸エピソード(1回で10秒以上続くもの)の回数が5回以上であることに加え、日中の眠気や意図しない睡眠エピソード、休息感の得られない睡眠、疲労、不眠などの症状を示します。また、息こらえや喘ぎ、息詰まりによる覚醒が見られたり、パートナーが患者の睡眠中の大きないびきや呼吸の中断を報告したりすることもあります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度は、1時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数によって、軽症(5~15回)、中等症(16~30回)、重症(30回超)に分類されます。
私の臨床経験から言えることですが、いびきを放置することで睡眠時無呼吸症候群へと進行するケースは決して少なくありません。特に中年以降の男性や肥満の方は注意が必要です。
睡眠障害は認知機能にも影響を及ぼします。高齢者における睡眠障害の影響として、心血管系リスクの上昇、高血圧の発症、耐糖能の低下、抑うつ症状の惹起に関連するとの報告があります。さらに、睡眠障害により脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)のクリアランスが低下することによりAβの増加や沈着が生じ、アルツハイマー型認知症のリスクが高まると考えられています。
あなたは毎日ぐっすり眠れていますか?もし眠りに問題を感じているなら、それはいびきが原因かもしれません。
いびきと睡眠障害の診断方法
いびきや睡眠障害が疑われる場合、まずは専門医による適切な診断が重要です。診断には主に以下のような方法が用いられます。
まず、問診では睡眠習慣や日中の眠気、いびきの頻度や大きさ、呼吸停止の有無などについて詳しく聞き取りを行います。可能であれば、一緒に寝ている方からの情報も非常に参考になります。
身体診察では、上気道の解剖学的特徴(扁桃肥大、口蓋垂の長さ、舌の大きさなど)、体格(特にBMI)、血圧などをチェックします。
睡眠ポリグラフ検査(PSG)
睡眠時無呼吸症候群の確定診断には、睡眠ポリグラフ検査(PSG)が最も信頼性の高い方法です。この検査では、睡眠中の脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸運動、血中酸素飽和度などを同時に記録し、睡眠の質や呼吸障害の程度を総合的に評価します。
簡易検査
自宅で行える簡易検査も普及しています。パルスオキシメーターを用いた血中酸素飽和度の測定や、携帯型の睡眠時呼吸モニターなどがあります。これらは正確性ではPSGに劣りますが、スクリーニング検査として有用です。
最近では、スマートフォンのアプリやウェアラブルデバイスを用いて、睡眠の質やいびきを記録する方法も増えています。ただし、これらは医学的診断ツールではなく、あくまで参考程度に留めておくべきでしょう。
私の臨床では、患者さんに睡眠日誌をつけていただくことも多いです。2週間程度、就寝時間や起床時間、睡眠の質、日中の眠気などを記録することで、睡眠パターンの全体像を把握しやすくなります。
あなたのいびきや睡眠の質が気になるなら、まずは専門医に相談してみませんか?
効果的ないびき・睡眠障害の治療法
いびきや睡眠障害の治療は、原因や重症度によって異なります。ここでは、効果的な治療法をいくつかご紹介します。
生活習慣の改善
軽度のいびきであれば、まずは生活習慣の改善から始めましょう。体重管理、アルコールや睡眠薬の摂取制限、禁煙、就寝前の過食を避けること、側臥位での睡眠(仰向けでなく横向きで寝ること)などが効果的です。
私の患者さんの中には、体重を5kg減らしただけでいびきが劇的に改善した方もいます。特に首周りの脂肪が減ることで、気道が確保されやすくなるのです。
CPAP療法
中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対しては、CPAP(持続陽圧呼吸)療法が第一選択となります。これは、マスクを通じて気道に一定の圧力をかけ、気道の閉塞を防ぐ治療法です。
2024年10月に発表されたメタ分析では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を持つ妊婦がCPAP治療を受けると、妊娠高血圧症のリスクが35%低下し、妊娠中毒症のリスクも30%低下したことが報告されています。患者の年齢や体格指数(BMI)に関わらず、このリスク低減効果が認められました。
マウスピース
軽度から中等度の症例や、CPAPを使用できない患者さんには、マウスピースのような口腔内装置が有効です。これは下顎を前方に引き出し、気道を広げる効果があります。歯科医師と連携して作製するのが効果的です。
最近では、睡眠時無呼吸症候群の治療法として「マウステーピング」が注目されています。2025年1月に発表された研究では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者54名を対象に、薬剤誘発睡眠内視鏡検査中の呼吸状態を観察したところ、口を閉じた状態では口を開けた状態よりも吸気流量が増加したことが報告されています。
ただし注意すべき点として、患者の22%では口を閉じることで軟口蓋咽頭の閉塞が生じ、吸気流量が逆に減少しました。これは睡眠中に有害な影響を与える可能性があります。このような結果から、マウステーピングは閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者全員に一律に推奨できるとは言えません。より多くの研究が必要であり、専門医の指導のもとで個々の状態に合わせた判断が重要です。
手術療法
解剖学的な異常が明らかな場合には、手術療法も選択肢となります。口蓋垂口蓋咽頭形成術(UPPP)、舌根正中切除術、下顎前方移動術、顎顔面骨格矯正などがあります。ただし、手術の効果は個人差が大きく、慎重な適応判断が必要です。
私の臨床経験では、手術療法は特定の患者さんには非常に効果的ですが、すべての方に適しているわけではありません。詳細な検査と評価に基づいた治療選択が重要です。
東京BTクリニック歯科・医科のいびき・睡眠障害治療
東京BTクリニック歯科・医科では、いびきや睡眠時無呼吸症候群に対する専門的な治療を提供しています。当クリニックでは、いびきや睡眠時無呼吸症候群に対して、単に症状を抑えるだけでなく、根本的な原因にアプローチする治療を行っています。特に、噛み合わせや呼吸の改善も考慮した歯列矯正や、睡眠時無呼吸症候群に対する専門的な治療を提供しています。CTやセファログラムによる撮影データを基に、患者様個々のお口の状態に応じた精密な固定式・可動式マウスピース装置を製作しております。加えて、レーザーによるナイトレーズ治療も日帰りで実施可能です。麻酔の必要もなくダウンタイムがない為、患者様にご満足いただいています。
良質な睡眠を実現する根本的な治療アプローチとして、顎顔面の骨格矯正治療も提供しております。CPAPを使い続けられない方や、いびきを改善したい方、正しいかみ合わせで歯並びを治したい方など、様々なお悩みに対応しています。また、歯科ドックを実施しており、お口全体の状態を総合的に検診し、様々な口腔の悩みに対応しています。
まとめ:いびきと睡眠障害から身を守るために
いびきは単なる音ではなく、睡眠障害や様々な健康リスクのサインである可能性があります。特に、大きないびきや日中の強い眠気、息が止まるような症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群を疑い、専門医への相談を検討すべきです。
睡眠障害は、高血圧や心疾患、糖尿病、認知症など、様々な疾患のリスクを高める可能性があります。早期発見・早期治療が重要であり、適切な治療によって生活の質を大きく改善することができます。
治療法は、生活習慣の改善から始まり、CPAP療法、口腔内装置、手術療法など、症状や原因に応じた選択肢があります。専門医と相談しながら、自分に最適な治療法を見つけることが大切です。
東京BTクリニック歯科・医科では、いびきや睡眠時無呼吸症候群に対する専門的な治療を提供しています。噛み合わせや呼吸の改善も考慮した歯列矯正や、睡眠時無呼吸症候群に対する根本治療など、患者様一人ひとりに合わせた治療を行っています。
あなたやパートナーのいびきが気になるなら、まずは専門医に相談してみましょう。健やかな睡眠は、健康な生活の基盤です。詳細は東京BTクリニック歯科・医科のウェブサイトをご覧ください。
著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医 日本臨床補綴学会 専門医 日本歯周病学会 認定医 IDIA顎顔面外科矯正 指導医 日本睡眠学会 日本睡眠歯科学会