2025年7月25日
睡眠時無呼吸症候群とは~その症状と危険性
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome: SAS)は、睡眠中に呼吸が10秒以上停止する状態が繰り返し起こる疾患です。単なる「いびき」と軽視されがちですが、実は全身の健康に深刻な影響を及ぼす病気なのです。
夜間に何度も呼吸が止まることで、体内が低酸素状態に陥り、質の良い睡眠が得られなくなります。
この病気は主に「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」と「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」の2種類に分類されます。OSAは気道が物理的に閉塞することで起こり、CSAは脳からの呼吸指令に問題が生じることで発生します。今回は臨床現場で最も多く見られるOSAを中心にお話しします。
SASの主な症状には、いびき、日中の強い眠気、起床時の頭痛、口の渇き、夜間頻尿などがあります。これらは一見すると些細な症状に思えるかもしれませんが、放置すると重大な健康リスクにつながります。
SASになりやすい方の特徴として、肥満、50歳以上、男性、毎日の飲酒などが挙げられます。しかし、これらの条件に当てはまらない方でも発症することがあるため注意が必要です。
あなたは「ただのいびき」だと思っていませんか?

実は、SASは放置すると様々な合併症のリスクが高まります。健常者と比較して、糖尿病のリスクは1.5倍、高血圧は2倍、心血管疾患は3倍、脳血管障害は4倍にも上昇します。さらに、突然死や認知症、うつ病のリスクも高まることが分かっています。
従来の治療法とその課題~CPAPの限界
睡眠時無呼吸症候群の標準治療として広く知られているのがCPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸療法)です。これは睡眠中、マスクを装着して機械で圧力をかけた空気を鼻から送り込み、気道を広げて無呼吸を防止する治療法です。
CPAP療法は確かに効果的な治療法であり、適切に使用すれば無呼吸の回数を大幅に減少させることができます。しかし、この治療法には多くの患者さんが継続に苦労するという大きな課題があります。
私の臨床経験からも、CPAP療法を中断してしまう患者さんは少なくありません。その理由としては以下のようなものが挙げられます。
・マスクの装着感が苦手で、圧迫感や違和感を感じる
・朝起きるとマスクの跡が顔に残り、外見を気にする
・マスクとの接触部分の肌がかぶれる
・機械の音が気になり、パートナーの睡眠を妨げる
・出張や旅行が多く、持ち運びが不便
・複数の生活拠点がある場合、機器の移動が困難
・毎月の通院や機器のメンテナンスが負担
・長期使用によるランニングコストの問題
ある50代の男性患者さんは、「CPAP装着後は確かに日中の眠気は改善したのですが、マスクが顔に当たる感覚が耐えられず、毎晩途中で外してしまいます。何か他の方法はないでしょうか」と相談されました。
このように、CPAP療法は効果的ではあるものの、生活の質や継続性の面で課題があります。実際、CPAP療法の継続率は50%程度との報告もあり、多くの患者さんが代替治療を求めているのが現状です。
では、CPAP以外にどのような治療選択肢があるのでしょうか?
口腔内装置(マウスピース)による治療
CPAP療法が合わない、または継続が難しい患者さんにとって、口腔内装置(マウスピース)は有効な代替治療の一つです。この装置は就寝時に口腔内に装着し、下顎を前方に引き出すことで気道を確保する仕組みになっています。
口腔内装置には主に固定式と可動式の2種類があります。固定式は下顎の位置を一定に保持するタイプで、可動式は口の開閉がある程度可能なタイプです。可動式は装着感がより快適で、睡眠中の自然な動きを妨げにくいという利点があります。
口腔内装置による治療のメリットは数多くあります。まず、装着が簡単で継続しやすいという点が大きな利点です。顔や頭部への負担が少なく、寝返りも打ちやすいため、睡眠の自由度が高いのです。また、音が出ないため、パートナーの睡眠を妨げることもありません。
さらに、手入れが比較的簡単で、小型・軽量なため出張や旅行にも持っていきやすいという実用面でのメリットもあります。通院頻度も3~6ヶ月に1回程度と少なく、日常生活への影響を最小限に抑えられます。
ある40代の女性患者さんは、「CPAPは効果があるのは分かっていましたが、毎晩装着するのが苦痛でした。マウスピースに変えてからは違和感もほとんどなく、続けられています」と喜ばれていました。
しかし、口腔内装置にも限界があります。重度の睡眠時無呼吸症候群の場合は効果が不十分なことがあります。また、顎関節に負担がかかることで顎関節症を引き起こす可能性や、長期使用による歯の位置変化などの副作用も報告されています。
効果を最大化するためには、単にマウスピースを作るだけでなく、事前に詳細な検査を行い、個々の患者さんの口腔内構造に合わせた精密な調整が必要です。CT撮影による気道の評価や、歯周病治療などの口腔内ケアも併せて行うことで、治療効果を高めることができます。


あなたの睡眠の質を改善する鍵は、適切な口腔内環境にあるかもしれません。
最新の代替治療法~舌下神経電気刺激療法
睡眠時無呼吸症候群の治療法は日々進化しています。2021年6月に日本でも保険適用となった画期的な治療法が「舌下神経電気刺激療法」です。この治療法は、CPAPが使えない患者さんにとって新たな希望となっています。
舌下神経電気刺激療法は、パルスジェネレータという小さな装置を鎖骨下に埋め込み、睡眠中の呼吸に合わせて舌下神経に微弱な電気刺激を送る治療法です。これにより舌を前方に引き出し、気道を確保します。
この治療法の大きな特徴は、外部から見えない体内埋め込み式であるため、CPAPのようなマスク装着の煩わしさがないことです。就寝前に外部コントローラーでスイッチをオンにするだけで作動し、朝になると自動的にオフになります。
舌下神経電気刺激療法の適応となるのは、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(無呼吸低呼吸指数が20回/時以上)でCPAP療法を継続できない方です。ただし、18歳以上で、肥満指数(BMI)が30kg/m²未満であることや、事前の薬物睡眠下内視鏡検査で適応があると判断されることなど、いくつかの条件があります。
欧米ではすでに2万件以上の症例で実施されており、無呼吸の改善や日中の眠気の解消といった効果が報告されています。ただし、心血管合併症への効果については現時点では十分なデータがなく、今後の研究が期待されています。
この治療を受けられる医療機関はまだ限られていますが、東京都内では順天堂大学医学部附属順天堂医院などで実施されています。
最新の治療法は、あなたの生活の質を大きく変える可能性を秘めています。
顎顔面骨格矯正による根本治療
睡眠時無呼吸症候群の根本的な原因の一つに、顎の構造的問題があります。特に上顎と下顎のバランスが悪い場合や、小さい顎、後退した下顎などは気道を狭くし、無呼吸の原因となります。
顎顔面骨格矯正は、こうした構造的問題に直接アプローチする治療法です。従来の顎矯正外科手術は入院を伴う大がかりなものでしたが、最近では日帰り手術で行える低侵襲な治療法も登場しています。
東京BTクリニック歯科・医科では、外から見えない極小の矯正器具を使用して、上顎を適切なサイズに矯正する治療を行っています。上顎と下顎のバランス、噛み合わせを整えることで物理的に鼻の空気の通り道と気道を広げ、鼻道や舌の位置を正常化します。
この治療の大きな特徴は、日帰り手術で痛みや腫れが少なく、翌日から社会復帰できる点です。また、再生医療技術「PRGF-Endoret®治療」を併用することで、治療期間の短縮や痛み・腫れの軽減も期待できます。

PRGF-Endoret®治療とは、患者さん自身の血液から抽出した成長因子を活用し、組織の修復を促進する治療法です。自己血液を使用するため安全性が高く、回復を早める効果があります。
ある30代男性患者さんは、「CPAPは効果があったものの、仕事の出張が多く継続できませんでした。顎矯正治療を受けてからは、気道が広がり呼吸が楽になりました。何より機器に頼らない生活に戻れたことが嬉しいです」と語っています。
顎顔面骨格矯正は、単に症状を抑える対処療法ではなく、無呼吸の原因そのものに働きかける根本治療です。CPAPやマウスピースといった医療器具に頼らず、いつでも気道を確保できる体を目指す治療法といえるでしょう。
あなたの体が本来持っている機能を取り戻すことが、真の健康への第一歩かもしれません。
レーザー治療と他の外科的アプローチ
睡眠時無呼吸症候群の治療には、軟口蓋や咽頭部の余分な組織を減らすレーザー治療や外科的アプローチも選択肢の一つです。これらの治療法は、気道を物理的に広げることで無呼吸を改善することを目的としています。
従来から行われている手術には、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)、ピラー手術、口蓋コブレーション手術などがあります。これらの手術は、のどちんこ(口蓋垂)や軟口蓋の一部を切除したり、口蓋の組織を硬化させたりすることで、気道の閉塞を防ぎます。
しかし、これらの治療法には課題もあります。まず痛みが発生します。また、治療効果が不十分であったり、数年後に手術した部位が瘢痕化して無呼吸症候群が再発したりすることが少なくありません。実際、過去にレーザー治療や各種手術を受けたにもかかわらず、症状が再発して来院される患者さんも多くいらっしゃいます。
最近では、より低侵襲でダウンタイムのない効果的な治療法として「ナイトレーズ治療」などの新しいレーザー治療も登場しています。これは「切らないレーザー治療」とも呼ばれ、組織を切除するのではなく、熱効果によって組織を引き締める効果があります。

ある患者さんは、「以前に受けた手術では一時的に良くなったものの、2年ほどで症状が戻ってきました。再手術も考えましたが、体への負担を考えると躊躇していました」と話されていました。
外科的アプローチを検討する際は、治療効果の持続性や再発のリスクについても十分に理解し、長期的な視点で治療計画を立てることが重要です。また、単独の治療ではなく、口腔内装置や生活習慣の改善など、複数のアプローチを組み合わせることで、より効果的な治療が期待できます。
あなたに最適な治療法は何でしょうか?それは一人ひとりの状態によって異なります。
総合的アプローチ~治療法の選択と組み合わせ
睡眠時無呼吸症候群の治療では、一つの方法だけに頼るのではなく、患者さん一人ひとりの状態に合わせた総合的なアプローチが重要です。実際の臨床現場では、複数の治療法を組み合わせることで、より効果的な改善が見られることが多いのです。
治療法の選択にあたっては、無呼吸の重症度、体型、顎の形態、生活スタイル、既往歴など、様々な要素を考慮する必要があります。例えば、軽度から中等度の症例ではマウスピースが有効なことが多く、重度の場合はCPAPが第一選択となりますが、CPAPが合わない場合は舌下神経電気刺激療法や顎顔面骨格矯正などの選択肢も検討します。
また、どの治療法を選択する場合でも、生活習慣の改善は基本となります。具体的には、体重管理、飲酒や睡眠薬の制限、横向き寝の習慣化などが挙げられます。特に肥満は睡眠時無呼吸症候群の大きなリスク要因であり、体重減少だけでも症状が改善することがあります。
私の臨床経験では、口腔内装置と顎顔面骨格矯正を組み合わせることで、CPAPに頼らずに良好な結果を得られるケースも少なくありません。また、歯周病治療やデンタルクリーニングなどの口腔ケアを併せて行うことで、口腔内装置の効果を高めることができます。
重要なのは、治療を始める前に詳細な検査を行い、無呼吸の原因を正確に把握することです。マウスピース作成前のCTやセファロによる撮影を通し顎関節の検査や気道の評価、マウスピース下顎を前方に移動させた際の効果予測、薬物睡眠下内視鏡検査などを通じて、気道閉塞のパターンや部位を特定することで、より効果的な治療計画を立てることができます。
あなたの睡眠の質を改善するためには、どのような治療法が最適でしょうか?
まとめ~あなたに合った治療法を見つけるために
睡眠時無呼吸症候群は単なる「いびき」ではなく、放置すると重大な健康リスクをもたらす疾患です。しかし、適切な治療を受けることで、症状の改善や合併症のリスク低減が期待できます。
従来のCPAP療法は効果的ではあるものの、継続の難しさが課題となっています。そこで、口腔内装置(マウスピース)、舌下神経電気刺激療法、顎顔面骨格矯正、レーザー治療など、様々な代替治療法が発展してきました。
これらの治療法にはそれぞれ特徴があり、一人ひとりの状態や生活スタイルに合わせた選択が重要です。最適な治療法を見つけるためには、専門医による詳細な検査と診断が不可欠です。
特に注目したいのは、単に症状を抑える対処療法ではなく、無呼吸の原因そのものにアプローチする根本治療の考え方です。顎顔面骨格矯正などの治療法は、医療機器に頼らない自然な呼吸の回復を目指すものであり、長期的な視点で見ると大きなメリットがあります。
睡眠は健康の基盤です。質の良い睡眠を取り戻すことは、日中のパフォーマンス向上だけでなく、様々な疾患のリスク低減にもつながります。
もし、いびきや日中の強い眠気でお悩みの方、CPAPが合わずに治療を中断してしまった方は、ぜひ専門医に相談してみてください。あなたに合った治療法が必ず見つかるはずです。
東京BTクリニック歯科・医科では、睡眠時無呼吸症候群に対する様々な治療法を提供しています。歯科と医科の幅広い両分野から総合的にアプローチし、一人ひとりに合わせた治療計画を立てることで、根本的な改善を目指しています。
質の良い睡眠で、より健康で活力ある毎日を取り戻しましょう。
詳しい情報や無料カウンセリングについては、東京BTクリニック歯科・医科までお気軽にお問い合わせください。
著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医 日本臨床補綴学会 専門医 日本歯周病学会 認定医 IDIA顎顔面外科矯正 指導医 日本睡眠学会 日本睡眠歯科学会