2025年7月19日
睡眠時無呼吸症候群とは?いびきが危険な理由
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome; SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり、浅くなったりして体の低酸素状態が発生する病気です。
大きないびきを特徴とし、睡眠中に10秒以上の呼吸停止が繰り返される状態を指します。単なる「いびき」と軽視されがちですが、実は命に関わる深刻な病気なのです。
主な原因は、舌や軟口蓋などが喉の奥に落ち込み気道を塞いでしまうことによります。自分では気づきにくいですが、家族からいびきや呼吸停止を指摘されることが多いのが特徴です。
「ただのいびき」と思っていたものが、実は命に関わる危険な状態かもしれません。いびきは単なる音の問題ではなく、呼吸障害のサインなのです。

睡眠時無呼吸症候群の症状と健康リスク
睡眠時無呼吸症候群には様々な症状があります。ご自身やご家族に心当たりがないか、確認してみましょう。
代表的な症状としては、毎晩大きないびきをかく、睡眠中に呼吸が苦しそう、息が苦しくて目が覚める、起床時に頭痛がする、昼間に我慢できないほど眠くなるなどが挙げられます。
これらの症状のほとんどは睡眠中に現れるため、自分自身では気づきにくいものです。パートナーや家族からの指摘が診断の第一歩となることが多いのです。
睡眠時無呼吸症候群は放置すると、様々な健康リスクをもたらします。酸素不足による影響で、脳や重要な臓器に酸素が十分に供給されなくなり、心臓や血管に負担がかかります。
これが繰り返されることで、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などの心血管系疾患のリスクが高まります。糖尿病や高脂血症も合併しやすくなります。
さらに、睡眠の質が低下することで、日中の強い眠気を引き起こし、仕事効率の低下や交通事故のリスク増加にもつながります。
どうでしょうか?これらの症状に心当たりはありませんか?
重症の睡眠時無呼吸症候群患者は、通常の人に比べて死亡率が約4倍、脳卒中・心筋梗塞を合併する確率は5倍にのぼるという報告もあります。決して軽視できない病気なのです。
睡眠時無呼吸症候群の診断方法
睡眠時無呼吸症候群の診断は、いくつかのステップで行われます。まずは症状の確認から始まり、必要に応じて専門的な検査へと進みます。
診断の第一歩は問診です。いびきや無呼吸の指摘、自覚症状、既往歴などについて医師が詳しく聞き取りを行います。
また、日中の眠気の程度を評価するために、エプワース眠気尺度(ESS)という質問表が用いられることがあります。これは日常生活の様々な場面での眠気を数値化するものです。

スクリーニング検査と簡易検査
症状から睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まずスクリーニング検査が行われます。パルスオキシメータという機器を指先につけ、血液中の酸素の状態と脈拍数を測定します。
これにより、無呼吸によって起こる酸素の低下状態が診断できます。自宅で検査機器を取り付け、睡眠中の酸素の状態を測定するため、普段の睡眠状態を反映した結果が得られます。
次のステップとして、簡易無呼吸検査が実施されます。これは、指先・呼吸のセンサーをつけ、睡眠中の血液中の酸素、呼吸の状態を測定するものです。
この検査により、10秒以上の無呼吸・低呼吸の1時間当たりの回数(AHI:無呼吸低呼吸指数)、酸素の低下状態を測定します。自宅でも実施可能なため、普段の睡眠環境での状態を評価できる利点があります。
精密検査(ポリソムノグラフィ)
より詳細な診断が必要な場合は、ポリソムノグラフィ(PSG)検査が行われます。これは睡眠時無呼吸症候群の検査では最も精密な方法です。
PSG検査では、脳波・筋電図・心電図・呼吸・血液中の酸素など、さまざまな生体信号を同時に測定します。これにより、無呼吸・低呼吸の回数だけでなく、睡眠の質や睡眠の深さ、睡眠の分断の有無、不整脈の有無、その他の睡眠障害の有無なども診断できます。
この検査は様々なセンサーを装着する必要があるため、専門の検査施設等に入院して行うことが一般的です。PSGは睡眠を判定できるため、総睡眠時間が計測でき、より正確にAHIを算出できる利点があります。
睡眠時無呼吸症候群の重症度判定
睡眠時無呼吸症候群の重症度は、主にAHI(無呼吸低呼吸指数)によって判定されます。AHIとは、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数のことです。
AHIが5以上で日中の眠気やいびきなどの症状が見られる場合に、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。重症度は以下のように分類されます。
軽症:AHIが5以上15未満
中等症:AHIが15以上30未満
重症:AHIが30以上
特にAHIが30以上の重症者は、道路交通法において運転業務に適さないレベルとされています。これは、日中の強い眠気によって事故を起こすリスクが高まるためです。
国土交通省の調査によると、睡眠時無呼吸症候群の有無により、自動車の事故率は2.4倍の差があるとされています。そのため、特に職業ドライバーの方は注意が必要です。
重症度の判定は治療方針を決める上でも重要です。一般的には、AHIが20以上の場合、後述するCPAP療法の適応になると考えられています。
睡眠時無呼吸症候群の重症度は、単に数値だけでなく、日中の眠気の程度や合併症の有無なども考慮して総合的に判断されます。
あなたの健康と安全のために、心当たりのある症状がある場合は、早めに専門医に相談することをお勧めします。
睡眠時無呼吸症候群の治療法
睡眠時無呼吸症候群の治療法は、重症度や原因によって異なります。ここでは、主な治療法について解説します。
CPAP療法
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:持続陽圧呼吸)療法は、中等度から重症の睡眠時無呼吸症候群に対する標準的な治療法です。
CPAP療法では、マスクを装着し、CPAP装置から送られる一定の圧力の空気によって気道を広げます。これにより、睡眠中の気道閉塞を防ぎ、無呼吸や低呼吸を改善します。
効果は高いものの、マスクの装着感や機器の音、乾燥感などにより継続が難しいケースもあります。特に鼻が詰まっていたり、気道が狭くなっていたりする患者さんには、CPAPの空気の出力を強くする必要があり、不快感が強くなることがあります。

マウスピース(口腔内装置)
軽症から中等症の睡眠時無呼吸症候群に対しては、マウスピース(オーラルアプライアンス)が効果的です。
このマウスピースは、下顎を前方に引き出すことで、舌根が喉の奥に落ち込むのを防ぎ、気道を確保します。CPAP療法に比べて装着の負担が少なく、携帯性も高いため、旅行先でも使用しやすいという利点があります。
ただし、効果はCPAP療法に比べるとやや劣り、歯や顎に負担がかかる場合もあります。歯科医師による適切な調整と定期的なフォローアップが必要です。


外科的治療
従来の外科的治療では、下顎を前方に動かす手術が行われてきました。これにより、狭くなっていた気道が広がり、空気の通りが良くなります。
しかし、この手術では2週間から1ヶ月の入院が必要で、患者さんへの負担が大きいという課題がありました。
現在では、上顎の狭さから気道への悪影響を改善するための顎顔面骨格矯正など、患者さんへの負担を最小限にしつつ、効果を最大化する術式も開発されています。
東京BTクリニック歯科・医科では、静脈鎮静法を用いた日帰り手術(2~3時間)や、PRGF療法を併用した痛みと腫れを軽減する治療を提供しています。これにより、翌日から通常の社会生活が可能になるというメリットがあります。

レーザー治療と筋肉トレーニング
最新の治療法として、レーザー治療やお口の周りの筋肉トレーニングも注目されています。
レーザー治療では、特定の部位にレーザーを照射し軟組織を収縮させることで、気道を広げ、いびきを改善させる効果が期待できます。CPAP療法と併用することで、CPAPの出力を段階的に下げ、使用時の不快感を軽減できる可能性があります。
また、加齢とともに舌の筋肉が衰え、喉の方に舌が落ち込んでいびきをかきやすくなります。舌を正しい位置に維持したり、唇を閉じたりする力を強化するためのトレーニングも効果的です。
これらの治療法は、患者さんの状態に合わせて組み合わせることで、より効果的な改善が期待できます。
睡眠時無呼吸症候群になりやすい人の特徴
睡眠時無呼吸症候群には、なりやすい体質や特徴があります。ご自身に当てはまるものがないか、確認してみましょう。
肥満・体型
睡眠時無呼吸症候群の発症原因の代表的なものの一つに肥満があります。肥満の方は喉や軟口蓋に脂肪がつきやすく、それによって気道を狭め、SASとなる可能性が高くなります。
厚労省の調査によると、30歳~60歳までの男性の3割以上が肥満であり、成人男性の肥満者数は20年間で1.5倍まで増えたとされます。それに伴い、日本における睡眠時無呼吸症候群患者の数も増加傾向にあります。
急に太った方も注意が必要です。体重の増加に伴い、首周りや喉の周囲にも脂肪がつき、気道が狭くなりやすくなります。
顔の特徴と首の太さ
肥満でなくても、顎が小さい、下顎が後方に引っ込んでいる、小顔である、二重顎、舌が大きい、扁桃腺が大きいなどの特徴をお持ちの方は気道が狭くなりやすく、睡眠時無呼吸症候群になる可能性が高くなります。
顎が小さい、もしくは後ろに引っ込んでいるタイプの人は、仰向けに寝ると舌根が普通の人よりも奥の方に落ち込みやすいため、気道を塞いでしまいます。
鏡の前で舌を出して喉を覗いてみて、口蓋垂(のどちんこ)や舌根部が見えにくい場合は、気道が狭い可能性があります。また、加齢による筋力低下で舌が落ち込みやすくなることも影響します。
性別と年齢
男性の方が睡眠時無呼吸症候群になりやすい傾向にあり、女性の2-3倍と言われています。
男性は女性に比べ、太ると上半身に脂肪がつきやすく、顎や喉への脂肪が蓄積しやすい傾向にあります。しかし、閉経後の女性は女性ホルモンの分泌が大きく低下し、男性と同程度まで睡眠時無呼吸症候群になりやすくなります。
また、年齢を重ねるにつれて筋肉量が減少し、特に舌や喉の筋肉が弱くなることで、睡眠中に気道が塞がりやすくなります。
これらの特徴に心当たりのある方は、いびきや日中の強い眠気などの症状がなくても、一度検査を受けることをお勧めします。
睡眠時無呼吸症候群の予防と生活習慣の改善
睡眠時無呼吸症候群の予防や症状の軽減には、生活習慣の改善が重要です。ここでは、日常生活で実践できる対策をご紹介します。
私は長年、睡眠時無呼吸症候群の患者さんを診てきましたが、適切な生活習慣の改善によって症状が大きく改善するケースを数多く経験しています。
適正体重の維持
肥満は睡眠時無呼吸症候群の主要なリスク因子です。体重を減らすことで、喉の周りの余分な脂肪が減少し、気道が広がりやすくなります。
特に、急激な体重増加があった方は、適正体重に戻すことで症状が改善することがあります。バランスの良い食事と適度な運動を心がけましょう。
睡眠姿勢の工夫
仰向けで寝ると、重力の影響で舌や軟口蓋が喉の奥に落ち込みやすくなります。横向きで寝ることで、気道が塞がりにくくなり、いびきや無呼吸が減少することがあります。
背中にテニスボールを縫い付けたTシャツを着るなど、仰向けになりにくい工夫も効果的です。また、枕の高さや硬さを調整して、気道が確保しやすい姿勢を見つけることも大切です。
アルコールと睡眠薬の注意
アルコールや睡眠薬は、喉の筋肉をリラックスさせる作用があり、気道が塞がりやすくなります。特に就寝前のアルコール摂取は、いびきや無呼吸を悪化させる可能性があります。
睡眠の質を向上させるためには、就寝前のアルコール摂取を控え、医師の指示なく睡眠薬を服用しないようにしましょう。
規則正しい生活リズム
不規則な生活リズムは、睡眠の質を低下させ、睡眠時無呼吸症候群の症状を悪化させることがあります。毎日同じ時間に起床・就寝することで、体内時計が整い、深い睡眠が得られやすくなります。
また、十分な睡眠時間を確保することも重要です。睡眠不足が続くと、次の睡眠ではより深い睡眠に入りやすくなり、筋肉がより弛緩して無呼吸が悪化することがあります。
これらの生活習慣の改善は、睡眠時無呼吸症候群の治療と併用することで、より効果的な改善が期待できます。
まとめ:いびきと睡眠時無呼吸症候群への対策
睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきではなく、命に関わる可能性のある深刻な病気です。放置すると、高血圧、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まるだけでなく、日中の強い眠気による事故のリスクも増加します。
症状としては、大きないびき、睡眠中の呼吸停止、日中の強い眠気、起床時の頭痛、疲労感などが挙げられます。これらの症状に心当たりがある方は、早めに専門医に相談することをお勧めします。
診断は、問診から始まり、必要に応じてスクリーニング検査、簡易無呼吸検査、ポリソムノグラフィなどの精密検査が行われます。重症度はAHI(無呼吸低呼吸指数)によって判定され、治療方針が決定されます。
治療法としては、CPAP療法、マウスピース、外科的治療、レーザー治療、筋肉トレーニングなどがあり、患者さんの状態に合わせて選択されます。また、適正体重の維持、睡眠姿勢の工夫、アルコールと睡眠薬の注意、規則正しい生活リズムなどの生活習慣の改善も重要です。
睡眠時無呼吸症候群は早期発見・早期治療が重要です。いびきや日中の眠気などの症状がある方は、ぜひ一度専門医に相談してみてください。
東京BTクリニック歯科・医科では、睡眠時無呼吸症候群の方に向けて、固定式と可動式マウスピースや ダウンタイムのないEr:yagレーザーを使った日帰り治療、顎顔面骨格矯正など、診断から治療まで一貫したサポートを提供しています。特に、従来の治療法で改善が見られなかった方や、CPAPの使用が困難な方にも、患者さんの状態に合わせた最適な治療法をご提案しています。
あなたの健康と質の高い睡眠のために、専門的な診断と治療を受けることをお勧めします。

著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医 日本臨床補綴学会 専門医 日本歯周病学会 認定医 IDIA顎顔面外科矯正 指導医 日本睡眠学会 日本睡眠歯科学会