2025年7月29日
歯周病とは~全身の健康に影響を与える口腔内の慢性疾患
歯周病は、歯を支える組織(歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨)に炎症が起こる感染性の疾患です。初期段階では歯肉の腫れや出血といった症状が現れますが、進行すると歯を支える骨が溶け、最終的には歯が抜け落ちてしまうこともあります。
実は歯周病は日本人が歯を失う原因の第1位であり、特に中高年以降、急速に歯を失う傾向があります。40代以降の約8割が何らかの歯周病に罹患しているとも言われています。
歯周病の最大の特徴は、自覚症状に乏しく、気づいたときには重度に進行していることが多いという点です。さらに近年の研究では、歯周病が糖尿病や心疾患、脳卒中など全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。
歯周病は単なる口の中の問題ではなく、生活習慣病として位置づけられています。つまり、日々の生活習慣が大きく関わっているのです。特に不十分な口腔ケアや喫煙、ストレス、糖尿病などが歯周病のリスクを高めることが知られています。
従来の歯周病治療とその限界
歯周病の治療は、従来から「歯周基本治療」と「歯周外科手術」の2つが主流でした。歯周基本治療では、プラークや歯石(バイオフィルム)の除去を行い、患者さん自身による徹底したプラークコントロールを促します。
具体的には、歯科医師や歯科衛生士によるスケーリング・ルートプレーニング(SRP)という処置で、歯の表面や歯周ポケット内の歯石や細菌を除去します。この治療は歯周病の症状が比較的軽度の場合には効果的です。
しかし、中等度から重度の歯周病では、歯周基本治療だけでは改善しない深い歯周ポケットや複雑な歯槽骨の欠損が残ることがあります。そのような場合に歯周外科手術が適応となります。
従来の歯周外科手術では、歯肉を切開して剥離し、歯や歯槽骨を直接見える状態にして、歯周基本治療では除去しきれなかったバイオフィルムを徹底的に除去します。しかし、この方法にも限界があります。
最大の課題は、一度失われた歯周組織(特に歯槽骨)を元に戻すことができないという点です。従来の治療法では、炎症を抑え、これ以上の組織破壊を防ぐことはできても、すでに失われた組織を再生させることは困難でした。
そのため、重度の歯周病患者さんの中には、「抜歯しかない」と告げられる方も少なくありませんでした。
歯周病で歯を失うことは、単に咀嚼機能の低下だけでなく、見た目や発音にも影響し、QOL(生活の質)の低下につながります。そこで注目されているのが、失われた歯周組織を再生させる「歯周組織再生療法」です。
歯周組織再生療法とは~失われた組織を取り戻す革新的アプローチ
歯周組織再生療法は、歯周病によって失われた歯周組織(歯肉・セメント質・歯根膜・歯槽骨)を再生させることを目的とした治療法です。従来の治療法が「これ以上悪化させない」ことを目指すのに対し、再生療法は「失われたものを取り戻す」という点で革新的です。
再生療法の基本的な流れは、まず歯肉を切開して剥離し、歯の根の表面を徹底的に清掃します。その後、骨欠損部位に様々な再生材料を応用し、縫合して治癒を待ちます。
手術時間は約1時間30分から2時間程度で、通常は手術から約2週間後に抜糸を行います。その後、定期的な経過観察を行い、約6ヶ月後に歯周組織の再評価を行います。
歯周組織再生療法に用いられる主な材料には、以下のようなものがあります。
エムドゲイン®:歯の発生時に重要な役割を果たすエナメルマトリックスタンパク質を含む材料で、歯周組織の再生を促進します。
リグロス®:塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)という成長因子で、歯周組織の細胞を増殖させ、失われた歯槽骨や歯根膜の再生を促します。
骨移植材:バイオオス®やサイトランス グラニュール®などがあり、骨欠損部位に応用することで骨再生を促進します。
吸収性膜:バイオガイド®やサイトランス エラシールド®などの膜を使用し、骨再生を促進します。
これらの材料を単独または組み合わせて使用することで、失われた歯周組織の再生を目指します。特に近年は、患者さん自身の血液から抽出した成長因子を活用する方法も注目されています。
PRGF療法~自己血液を活用した最新の再生医療
PRGFとは「Plasma Rich in Growth Factors(成長因子濃縮血漿)」の略で、患者さん自身の血液から抽出した成長因子を活用して組織の修復・再生を促進する治療法です。自己血液を使用するため安全性が高く、回復を早める効果があります。
PRGFは歯科分野だけでなく整形外科分野にも応用されており、様々な組織の再生に効果を発揮します。
具体的には、患者さんから少量の血液を採取し、特殊な遠心分離機にかけることで、成長因子を豊富に含む血漿成分を分離します。この成分を歯周病で失われた組織部分に応用することで、組織の修復と再生を促進するのです。
PRGFを用いた歯周組織再生療法の最大の特徴は、患者さん自身の血液由来の成長因子を使用するため、拒絶反応や感染症のリスクが極めて低いという点です。また、組織の治癒を促進する効果があるため、術後の回復が早いという利点もあります。

従来の歯周組織再生療法と比較して、PRGFを併用することで治療効果が向上することが報告されています。特に重度の歯周病で大きな骨欠損がある場合や、他の治療法では改善が難しかったケースでも効果が期待できます。
PRGFの効果はどのようなものでしょうか?
・組織の治癒・再生を促進
・炎症の抑制
・痛みの軽減
・術後の腫れや不快感の軽減
・治療期間の短縮
このように、PRGFは歯周組織再生療法の効果を高める画期的な方法として注目されています。

東京BTクリニック歯科・医科のPRGFを用いた歯周病治療
2025年4月30日に新規開院した東京BTクリニック歯科・医科では、PRGFを用いた最新の歯周組織再生療法を提供しています。「BT」は「Benefit(ベネフィット)」と「Treatment(トリートメント)」を意味し、患者様一人ひとりのお口の状態に合わせた治療を通じて、口腔だけでなく体全体の健康を支援することを理念としています。
当クリニックの最大の特徴は、PRGFを用いた再生医療の提供です。歯科分野と整形外科分野の両方にこの技術を応用しており、特に歯周病治療では短期間での改善を目指しています。
歯周病治療において、当クリニックでは以下のようなステップで治療を進めています。
歯科ドックによる総合検診:お口全体の状態を詳細に検査し、歯周病の進行度や骨の状態を評価します。
歯周基本治療:プラークや歯石の除去、ブラッシング指導など基本的な治療を行います。
PRGFを用いた歯周組織再生療法:重度の歯周病で骨の欠損がある場合、PRGFを活用した再生療法を実施します。
定期的なメンテナンス:治療後も定期的な検診とケアを行い、歯周病の再発を防ぎます。
特に注目すべきは、「短期間で歯周病を治したい」という患者様のニーズに応える治療法を提供している点です。PRGFを活用することで、従来の治療法よりも早期の回復が期待できます。
また、当クリニックでは「顎の骨が足りなくてインプラントが難しいと言われた方」に対しても、PRGFを用いた骨再生療法を行い、インプラント治療の可能性を広げています。
東京BTクリニック歯科・医科では、歯科と整形外科の両分野の専門家が連携し、口腔の健康だけでなく全身の健康を総合的にサポートする体制を整えています。
歯周組織再生療法の臨床例と効果
歯周組織再生療法の効果を具体的に示すため、いくつかの臨床例を紹介します。これらは実際の治療例に基づいたものです。
【臨床例1】50代男性、歯肉の違和感で来院
重度歯周病と診断され、歯磨き指導やスケーリング、SRPを行いましたが、部分的に改善しない箇所があったため、再生療法を実施しました。術前のレントゲン写真では歯の周りの骨が大量に溶けていましたが、歯肉をよけて歯の表面を徹底的に清掃し、骨の治りを促進する薬剤を使用しました。
術後のレントゲン写真では、失われた骨が元に戻っているのが確認され、初診から8ヶ月で全ての歯の改善と安定が確認されました。
【臨床例2】60代男性、全般的な検査と治療を希望
自覚症状はなかったものの、レントゲン写真上で歯の周りの骨が吸収されているのが確認されました。治療には再生療法を選択し、Gem21という組織再生誘導薬剤を用いました。1年後のレントゲン写真では、骨の欠損部が新生骨によって埋められているのが確認されました。
これらの臨床例からわかるように、歯周組織再生療法は適切に行われれば、失われた骨を再生させ、歯の保存に大きく貢献します。特にPRGFのような最新技術を併用することで、さらに効果的な治療が可能になっています。
歯周組織再生療法の効果は、以下のようにまとめられます。
・失われた歯槽骨の再生
・歯周ポケットの減少
・歯の動揺の改善
・歯肉の炎症の軽減
・歯の保存率の向上
・咀嚼機能の回復
・審美性の向上
ただし、再生療法の成功には、患者さん自身の口腔衛生状態の改善や禁煙なども重要な要素となります。治療前と治療後の徹底したプラークコントロールが強く推奨されます。
歯周病治療の未来~研究の最前線
歯周病治療の分野では、さらなる進化を遂げるための研究が日々進められています。特に注目されているのが、抗炎症タンパク質「DEL-1」の研究です。
DEL-1は体内で産生され抗炎症作用をもつタンパク質で、歯周病に罹患したマウスやサルに投与すると、炎症や骨吸収が抑制されることが確認されています。DEL-1は好中球の過度な遊走を阻止して炎症を抑制し、骨吸収を抑制して骨形成を促進する機能があることが明らかになっています。
現在、このDEL-1を誘導する新規薬剤の開発が進められており、将来的には錠剤として実用化される可能性があります。これが実現すれば、歯周病だけでなく、様々な炎症性疾患の治療に貢献することが期待されています。
また、歯根膜細胞シートを用いた歯周組織再生の研究も進んでいます。東京医科歯科大学では、患者さん自身の歯根膜細胞から作製した細胞シートを移植することで歯周組織を再生する研究が行われており、臨床的な有効性と安全性が確認されています。
さらに、ES細胞やiPS細胞を活用した再生医療の研究も進められています。これらの幹細胞技術を歯周組織再生に応用することで、より効果的な治療法の開発が期待されています。
歯周病と全身疾患との関連についても研究が進んでおり、歯周病を適切に管理することが全身の健康維持にも重要であることが明らかになってきています。2025年に発行された「歯周病と全身の健康2025」では、歯周病と様々な全身疾患との関連についての最新のエビデンスがまとめられています。
これらの研究成果が臨床応用されることで、将来的には歯周病治療の選択肢がさらに広がり、より効果的な治療が可能になることが期待されています。
まとめ~歯周病治療における再生医療の可能性
歯周病は日本人が歯を失う最大の原因であり、全身の健康にも影響を与える重要な疾患です。従来の歯周病治療では、炎症を抑え、これ以上の組織破壊を防ぐことはできても、すでに失われた組織を再生させることは困難でした。
しかし、歯周組織再生療法の発展により、失われた歯周組織を取り戻す可能性が広がっています。特にPRGFのような自己血液由来の成長因子を活用した治療法は、安全性が高く、回復を早める効果があることから注目されています。
東京BTクリニック歯科・医科では、このPRGFを用いた最新の歯周組織再生療法を提供しており、短期間での歯周病改善を目指しています。また、歯科と整形外科の両分野にこの技術を応用し、口腔だけでなく全身の健康をサポートする体制を整えています。
歯周病治療の分野では、DEL-1を誘導する新規薬剤の開発や、細胞シートを用いた再生療法、ES細胞やiPS細胞を活用した再生医療など、さらなる進化を遂げるための研究が日々進められています。
歯周病は早期発見・早期治療が重要です。定期的な歯科検診を受け、歯周病の兆候があれば専門医に相談することをお勧めします。特に「歯ぐきが腫れる」「歯磨き時に出血する」「口臭が気になる」「歯がグラグラする」などの症状がある場合は、早めに歯科医院を受診しましょう。
最新の歯周組織再生療法により、以前なら「抜歯しかない」と言われていた重度の歯周病でも、歯を保存できる可能性が高まっています。あなたの大切な歯を守るために、最新の治療法を提供する専門医療機関への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
東京BTクリニック歯科・医科では、カウンセリングやセカンドオピニオン相談も受け付けています。歯周病でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医 日本臨床補綴学会 専門医 日本歯周病学会 認定医 IDIA顎顔面外科矯正 指導医 日本睡眠学会 日本睡眠歯科学会