2025年7月26日
PRGF療法とは?歯周病治療における革新的アプローチ
歯周病は日本人成人の約80%が罹患していると言われる国民病です。歯を失う原因の第一位でもあり、放置すれば歯を支える骨が溶けていくという恐ろしい疾患です。私はこれまで多くの歯周病患者さんを診てきましたが、重度の歯周病になると従来の治療だけでは限界があることも事実です。
そんな中で注目を集めているのが、PRGF療法です。PRGFとは「Plasma Rich in Growth Factor(成長因子を豊富に含む血漿)」の略称で、患者さん自身の血液から抽出した成長因子を活用し、組織の修復・再生を促進する先進の再生医療技術なのです。
この治療法は、スペインのEduardo Anitua博士により開発され、世界中で認められている安全性の高い治療法です。歯科治療だけでなく、整形外科やスポーツ医学、さらには美容分野にまで応用されている最先端の医療技術なのです。

私が特に注目しているのは、PRGFが歯周病治療において示す驚くべき効果です。従来「骨がないからインプラントができない」と諦めざるを得なかった患者さんでも、PRGF療法によって新たな可能性が開けるケースを数多く経験してきました。
歯周病とその進行段階―なぜPRGF療法が必要なのか
歯周病の恐ろしさは、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。多くの患者さんが気づいたときには、すでに中等度から重度の歯周病に進行していることが少なくありません。
歯周病の進行段階は一般的に以下のように分類されます。それぞれの段階によって、治療アプローチも異なってくるのです。まずは歯周病の進行段階を理解しましょう。
歯肉炎から重度歯周炎までの進行過程
歯肉炎は歯周病の初期段階です。歯茎だけが腫れている状態で、痛みや違和感はほとんどありません。この段階では、ブラッシングの徹底と歯科医院でのクリーニングで改善が期待できます。しかし放置すると、次の段階へと進行してしまいます。
軽度歯周炎になると、「歯磨きをすると出血する」「歯が浮くような感じがする」などの症状が現れることがあります。ただし、多くの場合は自覚症状がほとんどないため、定期検診で発見されることが多いのです。この段階では、歯と歯茎の間にある歯周ポケット内の歯垢や歯石の除去が基本的な治療となります。
中等度歯周炎になると、歯を支える骨(歯槽骨)が溶け始め、歯肉が赤紫色に腫れてきます。膿が出ることもあり、口臭が強くなるなど、はっきりとした自覚症状が出てきます。この段階では通常のクリーニングや歯石除去だけでは対応できないケースも多く、歯周外科手術が必要になることがあります。
そして最も深刻なのが重度歯周炎です。歯肉は下がり、大量の歯石が歯根に付着し、歯を触るとグラつきが顕著になります。自然に抜け落ちてしまうケースもあるのです。この段階になると、従来の治療だけでは歯を保存することが難しくなります。
ここで重要なのが、PRGF療法です。特に中等度から重度の歯周炎において、失われた歯槽骨や歯周組織の再生を促進する効果が期待できるのです。
従来の歯周病治療の限界
従来の歯周病治療は、主にスケーリングやルートプレーニングという方法で歯石や歯垢を除去し、感染源を取り除くことが基本でした。これらの処置は歯周病の進行を止めるためには効果的ですが、すでに失われた骨や組織を再生させる効果は限定的です。
特に重度の歯周病では、歯を支える骨が大幅に減少しているため、従来の治療だけでは歯の保存が難しいケースが多いのです。そのような患者さんにとって、PRGF療法は新たな希望となります。
PRGF療法の科学的メカニズム―なぜ効果があるのか
PRGF療法がなぜ効果的なのか、その科学的なメカニズムを理解することは重要です。この治療法の核心は、患者さん自身の血液から抽出した成長因子を活用することにあります。
成長因子とは、体内で細胞の増殖や分化を促進するたんぱく質のことです。血小板には多くの成長因子が含まれており、これが傷ついた組織の修復を促進する働きをしています。PRGF療法では、この成長因子を高濃度に濃縮して活用するのです。
私たちの体には自然治癒力が備わっていますが、歯周病のように慢性的な炎症が続く状態では、その力だけでは組織の再生が追いつきません。PRGF療法は、体の自然治癒力を最大限に引き出し、増強する治療法と言えるでしょう。
PRP療法とPRGF療法の違い
再生医療の分野では、PRP(Platelet Rich Plasma:多血小板血漿)療法も広く知られています。PRGF療法はPRP療法の一種ですが、いくつかの重要な違いがあります。
最大の違いは、PRGF療法では白血球を完全に除去し、無傷で無活性の血小板を取り出せる点です。白血球には炎症を促進する作用もあるため、これを除去することで、より効果的に傷の治癒を促進することができます。
また、PRGF療法は現在唯一、医師が成長因子を活性化するタイミングをコントロールできる治療法です。成長因子を活発にする時間を治療部位に到達するように調整することで、最も効果的なタイミングで成長因子を活用できるのです。

さらに、PRGFは治療部位に届くと血小板の作用で素早く固まるため、しっかりと治療部位に留まった状態で成長因子を放出することができます。これにより、効果的な組織再生が期待できるのです。
PRGF療法の安全性
PRGF療法の最大の特徴は、患者さん自身の血液を使用するという点です。これまでの再生医療では、動物(牛や馬など)の骨を高温処理したものや、他の人の骨を処理したものなどが使われることがありました。
これらの材料は、私たちの体とは異なる種類のたんぱく質や骨の成分を使ったものです。そのため、アレルギー症状や拒絶反応が出るリスクがありました。
一方、PRGF療法は自分の血液から特別な成分を取り出して使うため、副作用のリスクが極めて低い治療法です。自分自身の血液を使用するため、安全性が高いことが大きな利点です。
PRGF療法の歯周病治療への応用―具体的な治療プロセス
PRGF療法の治療プロセスは、比較的シンプルです。まず患者さんから少量の血液(約20mL)を採取します。これは通常の血液検査と同程度の量です。
採取した血液は専用の機器で遠心分離し、血小板を多く含む血漿(PRGF)を分離します。この間に口腔内のクリーニングや必要な準備を行います。静脈鎮静を行う場合は、この時間にリラックスできる薬剤を投与することもあります。
そして、患者さんの血液から生成したPRGFを、治療が必要な部分に注入します。PRGFは治療部位に届くと血小板の作用で素早く固まり、成長因子を放出し始めます。これにより、歯周組織の再生が促進されるのです。
静脈鎮静を行った場合は、体がしっかりと覚醒するまで安静にしていただきます。治療後は、過度なうがいを避け、治療部位への刺激を最小限にすることが重要です。また、喫煙は治療効果を妨げる要因となるため、手術前後は禁煙が必要です。
歯周病の重症度に応じた治療アプローチ
歯周病の重症度によって、PRGF療法の適用方法も異なります。軽度から中等度の歯周病では、通常のスケーリングやルートプレーニングと併用することで、治療効果を高めることができます。
当院ではEr:yagレーザーを使ったセメント質を傷つけることなく歯石除去を行うことが可能です。さらにブルーラジカルを併用し非侵襲で歯周病の原因菌を殺菌することができるので、切らずに、痛みもなく、安全性の高い治療が可能です。

中等度から重度の歯周病では、歯周外科手術と併用することが多いです。外科的に歯周ポケット内の感染源を除去した後、PRGFを適用することで、失われた骨や組織の再生を促進します。
特に重度の歯周病で歯の保存が難しいケースでは、PRGF療法が最後の砦となることもあります。従来なら抜歯するしかなかった歯も、PRGF療法によって保存できる可能性が高まるのです。
どのような治療アプローチが最適かは、患者さん一人ひとりの状態によって異なります。詳細な検査と診断に基づいて、最適な治療計画を立てることが重要です。
PRGF療法のインプラント治療への応用
PRGF療法は歯周病治療だけでなく、インプラント治療においても大きな効果を発揮します。特に「顎の骨が少ない」「インプラントができない」と診断を受けた方にとって、新たな可能性を開く治療法となっています。
インプラント治療は、顎の骨に人工歯根を埋め込むことで歯の土台を作る治療法です。そのため、顎の骨が少なく足りない方は、従来はインプラント治療ができませんでした。

しかし、PRGF療法を使って顎の骨を再生させることで、これまで「インプラント治療ができない」と診断を受けていた方でも、治療ができるようになりました。これはPRGF療法の大きなメリットの一つです。
新たな骨の生成によって、しっかりとインプラントが固定できるようになるだけでなく、治療期間の短縮にも有効的に働きます。通常、インプラント埋入後の骨結合(オッセオインテグレーション)には数ヶ月かかりますが、PRGF療法を併用することで、この期間を短縮できる可能性があるのです。
抜歯後の骨造成とPRGF療法
抜歯後の顎の骨は、時間の経過とともに吸収されていきます。特に前歯部など審美的に重要な部位では、この骨吸収が問題となることがあります。
PRGF療法は、抜歯直後の骨欠損部位に適用することで、骨吸収を最小限に抑え、良質な骨形成を促進する効果があります。これにより、将来的なインプラント治療や審美的な補綴治療のための良好な条件を整えることができるのです。
抜歯した骨の欠損部にPRGFを入れることで、抜歯後の治癒(骨・歯肉の再生や傷口の回復)を促進します。これにより、抜歯窩(抜歯した後の穴)の治癒が早まり、痛みや腫れも軽減される効果が期待できます。
このように、PRGF療法はインプラント治療の様々な段階で活用でき、治療の成功率を高める重要な役割を果たしています。
PRGF療法の実際の治療効果と症例
私のクリニックでも、これまで多くの患者さんにPRGF療法を適用してきました。特に印象的なのは、他院で「骨がないからインプラント治療はできない」と言われた患者さんが来院されるケースです。
そのような方々にPRGF療法を適用して顎の骨を造り、しっかりと噛めるようになるインプラントを作らせていただいています。PRGF療法により、インプラント治療を一旦あきらめた患者さんたちが、また噛む喜びを得られたという嬉しいお言葉をいただいております。
歯周病治療においても、従来の治療だけでは改善が難しかった重度の歯周病患者さんが、PRGF療法によって歯の保存ができたケースも少なくありません。歯周ポケットの減少、歯の動揺度の改善、骨レベルの回復など、目に見える効果が得られています。
PRGF療法のメリットとデメリット
PRGF療法の最大のメリットは、患者さん自身の血液を使用するため、安全性が高いことです。アレルギー反応や拒絶反応のリスクが極めて低く、安心して治療を受けていただけます。
また、組織再生を促進する効果があるため、従来の治療では難しかったケースでも良好な結果が期待できます。さらに、傷の治癒を早める効果もあり、術後の痛みや腫れが軽減されるというメリットもあります。
一方、デメリットとしては、採血が必要であることが挙げられます。「血管が細く採血が難しい」と言われてきた方や、採血が苦手な方にとっては、採血時の痛みや内出血などがデメリットになるかもしれません。
また、PRGF療法は比較的新しい治療法であるため、保険適用外の自費診療となります。治療費用が従来の治療よりも高くなる点も、デメリットとして考慮する必要があるでしょう。

しかし、長期的な視点で見れば、歯の保存やインプラント治療の成功率向上など、得られるメリットは大きいと考えています。
まとめ:PRGF療法が開く歯科治療の新たな可能性
PRGF療法は、患者さん自身の血液から抽出した成長因子を活用する先進の再生医療技術です。歯周病治療やインプラント治療において、従来の治療法では難しかったケースでも良好な結果が期待できる革新的な治療法と言えるでしょう。
特に重度の歯周病患者さんや、顎の骨が少なくインプラント治療が難しいと診断された方にとって、PRGF療法は新たな希望となります。自分の歯で食べる喜びを取り戻すための重要な選択肢の一つです。
PRGF療法は1回限りではなく、治療のたびに活用すると、より良い効果が期待できます。抜歯後の傷口の治りが早くなる、骨造成時における良質な骨形成を促す、インプラント治療において骨の結合を強くするなど、それぞれの処置でPRGF療法を併せて行うことで、治療効果が高まっていくでしょう。
当院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療計画を提案させていただいております。PRGF療法について詳しく知りたい方、ご自身の歯の状態に不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
歯の健康は全身の健康にも大きく関わります。最新の再生医療技術を活用して、皆さまの健康な生活をサポートしていきたいと考えています。
詳しい情報や治療についてのご質問は、東京BTクリニック歯科・医科までお気軽にお問い合わせください。

著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医 日本臨床補綴学会 専門医 日本歯周病学会 認定医 IDIA顎顔面外科矯正 指導医 日本睡眠学会 日本睡眠歯科学会