2025年12月20日

いびきのマウスピース治療の効果を感じない方へ
いびきや睡眠時無呼吸症候群(OSA)の治療法として、マウスピース(口腔内装置)は手軽で効果的な選択肢の一つです。しかし、すべての患者さんに同じように効果が現れるわけではありません。
実際、適切に作製・調整されたマウスピースであっても、軽症で約55%、中等症で約45%、重症で約35%の成功率と言われております。つまり、一定の割合で「効果なし」と感じる方がいらっしゃるのが現実なのです。
本記事では、いびきマウスピースが効果を発揮しない主な原因と、それぞれに対する正しい対処法について詳しく解説します。
いびきのマウスピース治療の効果を感じない原因1:病状の重症度の適応範囲を超えている
重症睡眠時無呼吸症候群ではマウスピース単独での効果が限定的
無呼吸低呼吸指数(AHI)が30回/時以上の重症睡眠時無呼吸症候群では、気道の閉塞が高度であるため、マウスピースで下顎を前方に移動させるだけでは気道の確保が不十分なケースが多くなります。
マウスピース治療でAHIを5回/時未満に低減できる成功率は、軽症で55%、中等症で45%、重症では35%まで低下します。重症例では、マウスピース治療とCPAP(持続陽圧呼吸療法)の併用がより効果的な治療法となることが一般的です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群の可能性
マウスピース治療は、上気道の物理的な閉塞が原因である閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)に対して効果を発揮します。
一方で、脳からの呼吸指令の異常が原因である中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)や、その要素が強い混合性SASの場合、マウスピース治療では効果が期待できません。いびきが改善しない場合、再度の睡眠検査で病態を正確に評価することが重要です。
対処法:病状に応じた治療法の再検討
効果が不十分な場合は、まず睡眠検査を再実施して現在の病状を正確に把握しましょう。重症閉塞性睡眠時無呼吸症候と診断された場合、CPAP療法への切り替えや、マウスピースとCPAPの併用療法を検討する必要があります。
いびきのマウスピース治療の効果を感じない原因2:マウスピースの調整が不適切
下顎の前方移動量が不足している
マウスピースの効果は、下顎をどれだけ前方に移動させるかに大きく依存します。
調整可能なマウスピースでは、最適な症状緩和が得られるまで段階的に調整することで、AHIの大幅な低下が達成できます。
初回作製時の設定が保守的すぎる場合、十分な気道確保ができず、効果が限定的になることがあります。
市販品と医療用の決定的な違い
市販の「ボイル&バイト」タイプのマウスピースは、カスタムメイドの滴定可能な医療用装置よりも効果が劣ります。
対処法:専門医による再調整と定期的なフォローアップ
効果が不十分な場合、まず歯科医師に相談して下顎の前方移動量を段階的に増やす調整を受けましょう。
ただし、急激な調整は顎関節への負担や筋肉の圧痛を引き起こす可能性があるため、少しずつ調整を重ねることが重要です。また、市販品を使用している場合は、医療機関でカスタムメイドの装置を作製することをお勧めします。
いびきのマウスピース治療の効果を感じない原因3:口腔内や顎関節の状態が治療に適していない
歯の本数不足や歯周病の影響
マウスピースは歯に装着して固定するため、残存歯が20本未満の場合、装置が安定せず、すぐに外れてしまう可能性が高くなります。
また、重度の歯周病がある場合、歯が不安定で装置を支えられないため、マウスピース治療自体が困難になります。歯の状態が治療効果に直結するため、事前の歯科検診が不可欠です。
顎関節症による装着困難
顎関節に問題がある場合、マウスピースを装着すると不快感や痛みを感じる可能性があります。
特に、睡眠中に継続して使用するのが難しいケースも少なくありません。マウスピースは下顎を前方に移動させる構造のため、既存の顎関節症の症状を悪化させるリスクがあるのです。
鼻呼吸の障害
アレルギー性鼻炎などの影響で鼻詰まりがある場合、マウスピース装着により口呼吸・鼻呼吸がともにしづらくなることがあります。
マウスピース治療は鼻呼吸が習慣化している方に適しており、鼻に疾患がある場合は耳鼻科で治療を受けてから使用することが推奨されます。
対処法:口腔内環境の改善と代替治療の検討
歯周病がある場合は、まず歯科治療を優先して口腔内環境を整えましょう。歯の本数が不足している場合は、インプラントや義歯などの補綴治療後にマウスピース作製を検討します。
顎関節症がある方は、症状が安定してからマウスピース治療を開始するか、他の治療法(レーザー療法など)を選択することが賢明です。
いびきのマウスピース治療の効果を感じない原因4:装着習慣が確立されていない
初期の違和感による装着時間の不足
マウスピース治療の効果を得るには、毎晩継続して装着することが不可欠です。しかし、初めて使用する場合、顎関節に痛みを覚えたり、過剰な唾液分泌、口腔乾燥、歯の不快感などの副作用を経験することがあります。
これらの副作用は通常、軽度で一過性に分類されますが、不快感から装着を中断してしまうと、十分な治療効果が得られません。
長期使用による咬合変化への不安
マウスピースを1~2年継続すると、咬合の変化がよく報告されます。
一般的に、患者さんは10年間装着すると、オーバージェット(上下の歯の水平的な距離)が平均2.5mm減少することを予期する必要があります。この咬合変化への不安から、装着を躊躇する方もいらっしゃいます。
※オーバージェット:上の前歯が下の前歯よりどれくらい前に出ているかを表す距離
対処法:段階的な慣らしと定期的なメンテナンス
初めてマウスピースを使用する場合、痛みを感じたときは無理せず外して、徐々に慣れるようにしていくことが大切です。
下顎の前進量を一時的に減少させることで、筋肉の圧痛も改善できます。また、カスタムメイドのマウスピースは、歯と歯茎への圧力を軽減するように調整できるため、不快感がある場合は歯科医師に相談しましょう。
咬合変化については、患者さんの知覚は一般的に客観的な測定値と相関せず、気付かれないことも多いです。定期的な歯科検診(半年に1回程度)でメンテナンスを受けることで、長期的な安全性を確保できます。
いびきのマウスピース治療の効果を感じない原因5:併存疾患や生活習慣の影響
肥満度(BMI)の影響
体重の増加はマウスピースの有効性の低下と相関していることが示唆されています。
BMIが32kg/m²を超える患者さんは、上気道刺激療法(UAS)などの他の治療法でも除外基準となることが多く、マウスピース治療でも効果が限定的になる傾向があります。
飲酒や睡眠姿勢の影響
就寝前のアルコールや鎮静剤の摂取は、上気道の筋緊張を低下させ、マウスピースの効果を減弱させる可能性があります。
また、仰向けでの睡眠は舌根沈下を助長するため、体位療法(横向き寝)との併用が効果的な場合があります。
心身症や精神的ストレスの影響
心身症は、精神的なストレスが身体に影響を及ぼしてさまざまな症状を引き起こす病気です。
このような症状を抱える方は、マウスピース治療の際に不安や違和感が生じやすく、治療が適さない可能性があります。治療を検討する際には、医師としっかり相談して、心身の状態に合わせた対処法を選ぶことが重要です。
対処法:総合的なアプローチと生活習慣の改善
肥満がある場合は、集中的な生活習慣介入や大幅な体重減少をもたらす肥満手術が、睡眠時無呼吸症候群の重症度を軽減するのに効果的です。
体重減少は睡眠時無呼吸症候群の重症度を軽減し、症状を改善しますが、完全に治癒することはまれです。そのため、マウスピース治療と並行して減量に取り組むことで、相乗効果が期待できます。
就寝前のアルコール摂取を控え、横向き寝を習慣化するなどの行動的アプローチも、特定の患者グループに役立つ可能性があります。また、鼻の開通性を最大化するための鼻腔拡張テープなどの補助的な対策も検討しましょう。
当院の医療用マウスピース
当院では、治療効果を最大限に高め、快適に続けていただくために、患者さん一人ひとりの顎関節や噛み合わせに合わせた設計を行っています。
CT・セファロを活用した精密検査
当院では、顎関節の専門医によるCT・セファロ(頭部X線規格写真)検査を行い、より高精度な診断を実施しています。
これらの検査によって、単に「下顎を前に出す」だけでなく、
「どの角度で」「どの位置まで」動かすのが最も適切かを科学的に分析します。
その結果、気道をしっかり確保しながらも顎への負担が少ない、長期使用可能で効果的なマウスピースを製作することが可能になります。
目的に応じた2タイプのマウスピース
当院では、症状や顎関節の動きに合わせて、2つのタイプから最適なものを選択します。
可動式タイプ
上下の装置が連結されていますが、睡眠中もある程度顎を動かすことができます。
口の開閉が自然で、装着時の違和感が少なく、初めて治療を受ける方でも慣れやすい設計です。
固定式タイプ
上下をしっかりと固定し、下顎の位置を安定的に保持します。
気道の確保力が高く、いびきや無呼吸が強い方など、より重度の症状にも対応できます。
どちらのタイプが適しているかは、症状の程度・顎関節の可動域・歯の状態を総合的に評価したうえで決定します。
まとめ:適切な診断と治療法の選択が重要
いびきマウスピースが「効果なし」と感じる主な原因は、病状の重症度、マウスピースの調整不足、口腔内・顎関節の状態、装着習慣の問題、併存疾患や生活習慣の影響など、多岐にわたります。
重要なのは、効果が不十分な場合に原因を特定し、適切な対処法を講じることです。睡眠検査による病状の再評価、専門医による装置の再調整、口腔内環境の改善、生活習慣の見直しなど、段階的なアプローチが効果的です。
マウスピース治療は、適切に選択・調整された場合、軽度から中等度の睡眠時無呼吸症候群の患者さんに対して有効性が確認されています。しかし、すべての方に適しているわけではなく、CPAP療法やレーザー療法など、他の治療選択肢も存在します。
当クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群の診断から治療まで、包括的なサポートを提供しています。いびきや睡眠時無呼吸症候群でお悩みの方は、東京BTクリニック歯科・医科までお気軽にご相談ください。

著者情報 医療法人社団誠歯会 理事長 歯学博士 東京BTクリニック 歯科・医科 加藤 嘉哉 YOSHIYA KATO 【経歴】 東京歯科大学 総合歯科 東京歯科大学 インプラント専門外来 医療法人誠歯会 加藤歯科クリニック 開業 日本大学松戸歯学部非常勤講師 【資格・所属学会】 PRGF-Endoret® 指導医、公認インストラクター 日本口腔インプラント学会 専門医

